どうしてこの本は、こうまでしてあたしの心を重たくさせるんだろう。
人を愛する。
それは、毎日食事を摂り、排泄をし、呼吸をすることと何ら変わらない。
人間にとって、男とか女とかの性別も、年齢さえも全く関係なく、必要不可欠で、それでいて、時々、どうしようもなく不必要だと感じてしまう。
そんなアンバランスで、危うく、脆く、だけどやっぱりどうしても必要な存在。
あたしはそう思っている。
なのに、この本はどうだろう。
いちいち、そういう愛することがなんであるかを、実に、こと細やかに説明し、そして結論づけてしまう。
『終わらないラブストーリーを君に』
あたしはその本を綴じると、ため息をひとつついて、木製のブックシェルフの、一番奥にしまいこんだ。
反対側のベットからは、静かな寝息が、穏やかな波のように繰り返されている。
彼が生きているという、頼りない証。
「おはよう、一成。もう、朝よ」
あたしはベットサイドに腰をかけ、やっぱり頼りなく笑うと、彼の額に軽くキスをした。
毎朝の儀式は、実に静かで気持ちを穏やかにしてくれる。