微かに瞬く星屑
□邂逅
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「しーーずちゃん」
どこからか聞こえたあの声に、条件反射で反応してしまう自分に腹が立ちながらも、どこか内心嬉しく思っている自分に腹が立ちながらも。
これだからノミ蟲野郎はムカつく。
「どっしたのー?」
臨也の口が閉じたかと思った瞬間、体に軽い衝撃。見れば服に臨也がくっついていた。
「……おい」
いきなり抱きつかれても嫌ではないな、とか思ってしまった俺。もう嫌だ。
「えへへー」
「えへへじゃねえ」
「うふふ」
「きめえ」
臨也を体に付属させながらたわいもなく臨也と話す。
いつからか、本当にいつからか、何故か傍から見れば甘々カップルの様に見える関係を俺は臨也とやっている。否、傍から見なくても甘々カップルに見えるのだが。
路上で抱きつかれても池袋に悲鳴が響かなくなったのはつい最近だ。
「おかーさーん!」って小学生の叫び声がした時は泣けたな……
今でも俺と臨也がはち合わせるごとに軽く空気に亀裂が入る。憐れみの視線を投げかけるのは止めてくれ。
そんな事を考えつつトムさんに盛大に引かれた事を思い出していた時、
臨也の様子が変わったのを感じて辺りを見回す。
臨也がすっと離れて立ち、後ろを向いた。
「やあ」
その時の臨也の声は、冷たく慈しみを含んでいた。
雰囲気ががらりと反転し、そこに居たのは孤高の情報屋。
相 変 わ ら ず う ぜ え 。
今の臨也の顔を見たらキレるかもしれない。
臨也の態度の変わり様が気に入らなかった。
自分の態度の変わり様が気に入らなかった。
「正臣君今日は一人?いつもあの竜ヶ峰って子と一緒にいるんだと思ってたよ」
ノミ蟲が相対していたのは高校生らしい茶髪の少年。
こんな年頃で『折原臨也』を知っているなんて、ノミ蟲に利用されているのだろうか。
そう思って見ると、その少年は年頃らしからぬ陰りを顔に浮かべている様な気がした。
胸糞悪い。
少年は―――黄巾族の元将軍は、情報屋と二言三言話した後雑踏へ消えていった。
普通の少年なのに、一瞬辛そうな顔を、苦しそうな顔をしたのが印象に残った――
「おい臨也――ノミ蟲」
「何?シズちゃん」
「あんま年下をイジメんじゃねえぞ」
「……ははっ?シズちゃん心配してるんだ――あの子の事」
「殺してやろうかノミ蟲君よォ」
「わかったよ。……過去からは、逃げられないんだけどねえ……」
気に入らなかった。
ノミ蟲の返答が。
気に入らなかった。
臨也の態度が。
気に入らなかった。
あの少年の表情が。
気に入らなかった。
自分が――――
いつかまた、あの少年と会える機会があるだろうか。
何だか知らねえが、あの少年が心から笑える様に――――――
してやりたいと、思った。