SNOW*ROSE

□第1章
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わたしは白雪という名前を変えることが出来るのなら、変えてほしい。
だってわたしは雪のように、綺麗で美しい存在ではないから。
でも、もしこの名前が何かの役にたつのなら、喜んで引き受けよう。
そう。それも運命なのだから。

「咲菜ー。何か飲み物頂戴〜」
「何がいいの?」
「んー・・・オレンジジュースある?」
「あるよー」
「じゃあそれで」

わたしはいま、咲菜の家に遊びに来ている。
まぁ、遊びに来ているといっても、少し遅い進級テストの勉強だけれど。

「はい、オレンジジュース」
「ありがと」

咲菜は勉強は嫌いといっているけれど、英語は何気に出来る。ただ、他の教科はなぜかまったく出来ないのだけれど。
代わりにわたしは、英語がダメで他の教科は出来る。

「……ねぇ…この計算わけわかんないんだけど…」
「どこぉ?…これ…中2の時に習う問題よ?」
「でも分からないし…」
「えっとね…これは連立方程式だから…」

白雪は咲菜が解いている問題用紙を覗き込んで、自分で解き始めている。
その間に、咲菜はこっそりと部屋を出ようとする。が、つかまった。

「出ちゃだめよ。ちゃんと見ておかないと、後から解けないじゃない」
「うう・・・はい」

咲菜がしぶしぶ問題用紙を覗き込んでいるのが分かる。
白雪は、苦笑いを浮かべながら、説明をしながら問題を解いていく。

「…ってことで、答えはI=3、y=5よ」
「ふーん・・・。たぶん分かった」
咲菜が珍しく、自力で問題を解こうとしたとき、隣の竜魅の家から悲鳴と、大きな音が鳴った。

「な、何?」
「咲菜、竜魅の家が…崩れてるわ!」
「嘘!どうして!!」

わたしは神を信じない。
だって、いるのなら、どうして悲劇が起こるの?
でもこのときは神に祈った。ただただ、一心に。心の奥から。
あわてて家を出て、竜魅の家の前まで白雪と咲菜は走った。

『おもしろい』

そのとき空から誰かの声が聞こえた。
白雪は空を見上げる。
そこには空中に立っている男がいた。

「この状況でおもしろいですって!」
「白雪!!」

すぐにでも、相手を殴りそうな勢いの白雪を咲菜が必死で抑える。

『白雪…だと?』
「だったら何だというの!?」
『助けてやろうか?』

謎の男は黒漣と名乗った。そして、もう崩れ落ちた竜魅の家を指差して言う。当然のように。

『あそこに埋まっている女を助けてやろうか?』

わたしはなぜか唐突に理解した。
この男は神だと。
何かの根拠があったわけでも、確信を得ているわけでもない。
なのに、分かった。
だから迷わなかった。

「助けてちょうだい」
『交換条件がある』

のんきに話を切り出した男に、白雪は叫んだ。

「後でなんでもするから竜魅を助けて!!」
『…承知した』
「白雪…」

耳元で心配そうな咲菜の声が聞こえる。でもわたしの頭のなかには入らない。

あの男は神だ。
ならばなぜここにいる?
その疑問ははじめから答えが分かっていた。
−世界の崩壊が迫っているのだ−
もう、ここに戻ることはできないと、頭の中でだれかが言っている。
そんなことは知っている。
そう…この世界に生まれでたあの瞬間から。
すでに。
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