時有ノ少女

□第壱幕
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旅人を部屋まで案内した後、
また新しい客を捕まえに行く。
と、店の前に見たくもない顔があった。

「よぉ。ずいぶん金稼ぎに必死だな」
「…翔也《しょうや》…。こんなとこに顔出すなんてあんたも暇ね」

彼は翔也。
翡翠が働いている宿屋のいわばライバル店で、事あるごとに翡翠に突っかかってくる嫌な奴だ。

「はぁ?別にお前に用があって来たわけじゃねーし。
お前バカ?」
「……ッ」

その言葉にムッとしたが、翡翠は言い返せない。
勝手に勘違いしてしまったのは翡翠自身の失態だ。
翔也もそれを分かっているのか、馬鹿にしたような顔で笑う。

「女将に用なら呼びますけど?」

せめてもと、嫌そうに言う。
だが意外にも翔也は首を振った。

「いや、別にお前のところの女将に用があるわけじゃない」
「じゃあ何?」
「……噂の確認…だな」
「?」

訳が分からない。
噂が何なのかも、なぜここに来るのかも。
まぁ関係ないことだから知ったことじゃないが。

「それならもう帰ってくれない?商売の邪魔」

翡翠の言葉に翔也は機嫌を悪くしたらしく、舌打ちをした後人ごみの中に姿を消した。

「……なんなの、あいつ…」

翔也はいなくなり、再び旅人を探す。
が、翔也の言ったことが気になって、なかなか進まない。
翔也が執着するような噂とはいったい何なんだろうか。

「気になる……」

そんなことをしている場合ではないと分かっていても、
好奇心がむくむくと湧き上がる。
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