雑記

□Web拍手連載
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「行ってくる」
「行ってらっしゃい、今日は何時に帰るの?」
「8時に」
「うん!待ってるからね」

片手を上げて歩いて行くゼラにジャイボは大きく手を振って見送った。

彼等が住む螢光マンションは周辺でも一等地である。
青年実業家である常川ゼラは最上階に家族と共に住んでいた。


「こらぁ―雷蔵!早くしなさぁい!」
「や―!」

ジャイボが自室の外から声をかけたら息子、ではなく娘の雷蔵が拒否を告げた。

「まだ決まらないの―?」
「だって僕のニーソが無いんだもん!」

半泣きで叫ぶ雷蔵にジャイボは防音でよかった、とひっそり思った。

(でもいつの間にか全室防音だったな…)

ある日突然帰って来てみれば、さらりと告げられた一言。
「防音にした」
最初は驚きはしたものの、ゼラがした事ならと納得したジャイボだった。


「クローゼットの右から3番目の引き出しはぁ―?」


「あったぁ―!ありがと!」


ジャイボはやれやれと肩をすくめて洗面所に向かった。
稼動させていた洗濯機から洗濯した物を取り出し、乾燥機に入れていく。

「ねぇママ、可愛い?」
「とっても」
「ありがと!学校行ってきます!!」

バタバタと走って行く愛娘は今年中学2年生で、オシャレに敏感だ。

洗濯を終えれば帰ってくる2人の為に食事の下ごしらえを始める。

「あ、金田が来るんだった」

未だ新婚気分の万年カップル夫婦である金田、もとい田宮に料理を教える話しを思い出した。

「あと1時間くらいかぁ」

マリネのボールを冷蔵庫に入れ、ライチ酒を確認した。




愛する夫が帰るまで十数時間



(ゼラ、早く帰って来てよ)
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