小説
□怨憎呪
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人間とは脆く不思議な生き物である。
恨めしい、恨めしいと思っていれば相手がぽっくりと死んでしまう。そんなこともある。
殺したいほど憎い、だとか、彼は彼女にこっぴどく振られれば良いなんて考えていると本当にそうなったりもする。
人間とは本当に不思議な生き物だ。
法律上では呪殺は不可能犯罪とか言うものに分類されるらしいが、いまいちぴんとこないというのが私の感想だ。
何せ私にとって呪術とは当たり前に傍にあるものだから。
私はこの世に生を受けるために呪いにより生まれてきた。
母の胎内で一度死んだそれは呪術師により再び生を得た。
そのせいだろうか。
私には、人の寿命、未来が見える。
さっきすれ違った彼女。
確か音楽が専攻だった。
彼女は教師になる。高校だろうか? 女子が多い学校だ。もしかすると女子高かもしれない。けど、彼女は生徒から嫌がらせを受け、それを苦にして首を吊る。25の秋だろうか。
今目の前でタバコを吸っている彼。
彼は役者志望だろうか? 外部公演の仕込み中に綱元の操作ミスでカッターライトが頭に直撃で即死。
これはすごい。外でハードル走をしている彼女は次のオリンピックに出場するらしい。メダルには届かないがなかなかの成績だ。
けど、記録が伸びなくなったのを苦に薬物に手を出す。
人間って脆い。
あっけなく死んでいく。
気持ち悪い。
死も、生も、何もかもみんな。
人間って気持ち悪い。
体育館。
あの場所は嫌い。
怨み妬みが詰まってる。
被服室。
あの場所も嫌い。
見栄、僻み、罵り合い。
どろどろ渦巻く嫌な場所。
第二指導室。
あの場所も嫌い。
女の醜い争いの念が詰まってる。
臨時ステージ。
あの場所は最悪。
憎悪の塊と混沌が住んでいる。
学校って嫌いよ。嫌い。
だって人の念でいっぱい。
ここで呼吸をすることさえ苦しい。
ここでは常に呪術が行われている。
ずっと誰かが誰かを呪っているの。
永遠に繰り返されるそれは建物に染込んでいる。
決して消えない念呪。
ほら、建築科の彼、手のひらに釘を刺したわ。
ほら、野球専攻の彼、顔面にボールが直撃で重傷よ。
ほら、音楽専攻の彼女、声が出なくなったわ。
ほら、役者志望の彼女、舞台から転落して顔に怪我をしたわ。
小さな小さな恨みの念が大きく大きく育っていく。
育った恨みはやがて呪詛に変わる。
ここは戦場。
誰かが誰かの足を引っ張る。
些細な恨みや妬みが呪詛になる。
人を呪わば穴二つ。
次は、誰の番かしら?