□ファーストコンタクト
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その日もいつもと変わらない、ただ退屈な放課後になる予定だった。

『メールが届きました』

琴乃の持つパソコンの画面にそんな表示が現れた。

『拝啓  とつぜんのメールをお許しください』

そんな書き出しのメールには簡潔にプロフィールがまとめられており、さらに本日午後16時00分にお迎えに上がりますなどと書かれていた。
が、基本的に興味がないものは徹底的に無視している琴乃にとって、このメールは何も興味をひかれるものはなかったようだ。すぐさま消去されてしまった。

「こーとのっ。アタシ達、関のトコに奇襲掛けに行くけど、琴乃どうする?」
「ん、パス。メンドイ」
「だと思った。部室、適当に閉めちゃっていいから」
「いつもどおりね」
「そういうこと。あ、由愛ちゃんまだ来てないみたいだから、よろしく」
「んー」

そして、遥達は隣の学校(バスで30分)に向かった。あ、ここは小さな島なので電車なんてハイテクなものは走っていません。

遥達が出て行って約10分ほどすると藤原由愛が部室に入ってきた。

「ごめんね。友達と話してて遅くなっちゃった。あれ? 遥ちゃんたちは?」
「関のトコ」
「また戦争?」
「そうなんじゃない?」
「そっか」
「由愛ちゃんも帰りたかったら帰っちゃっても大丈夫だよ」
「ううん。大丈夫。今日、予定ないから」


それから約25分後。部室の時計が16時00分を指したまさにその時、部室のドアをノックするモノがいた。

コンコン

「はーい。開いてますよー。誰かな?」
「さぁ」
「失礼いたします」

軽く腰を曲げ丁寧にお辞儀し、部室に入ってきたのは黒い燕尾服に白く汚れ一つないワイシャツを着た高校生くらいの男子だった。

「誰?」
「不審者じゃない」
「えっ!! センセイ呼ばなきゃ」
「お待ちください」

元通りにドアを閉めたその人は、ゆっくりとしかし確実に琴乃たちのもとに近づいてきた。

「森様と藤原様ですね」
「違います。森さんと藤原さんならさっき玄関に――」
「貴女方の情報はすべて持っています。無駄なあがきはお辞めになった方が賢明ですよ」
「あの。ところで、どちら様ですか?」
「これは、申し遅れました。私、田中厳司様の執事をしております、藤咲蒼と申します。以後、お見知りおきを」
「田中、厳司?」
「はい。さきほどメールを送らせていただいた者です」
「適当に流し見して消去したけど?」
「あのような形がファーストコンタクトとなってしまい、大変失礼いたしました」
「メール?」
「さっき、パソコンに届いたんだけど、消した」
「えっ!! 何で!?」
「迎えにくるとか書いてあったけど、悪戯だと思ったし」
「見ず知らずの女性にお電話を掛けて警戒されても困りますので、パソコンの方のメールにいたしました」
「ウチらのケータイの番号もメアドも知ってるって口ぶりだね」
「はい。存じております」
「プライバシーの侵害で訴えますよ」
「申し訳ございません。厳司様は政界にも顔が利きます故、そのような訴訟を起こしても無意味なのです」
「へぇ。それなりに凄い人なんだ。で、その凄い人がこんな小さな島の県立高校生のウチらに何の用?」
「そのお話は、ここでは出来かねます。近くのホテルに厳司様がお待ちですので、そちらの方でお願いいたします」
「こ、琴ちゃん。どうする?」
「・・・はぁ。仕方ない」
「行くの?」
「何度もココに来られても迷惑だからね」
「じゃぁ、私も」
「危ないから止めといたほうがいいんじゃない?」
「それじゃぁ、琴ちゃんも危ないよ」
「ま、大丈夫だと思うけど」
「一緒に行こうよ」
「はぁ。由愛ちゃんに何かしたらウチの部長が黙ってませんよ」

この一言に藤咲蒼という男子は少し表情を緩めた。

「はい。承知しております」
「それじゃ、行こうか。その田中さんとやらのとこに」
「こちらです」

琴乃と由愛は帰り支度をし、部室に鍵を掛けると、あらかじめ用意してあった

『本日休部』

と書かれたA4用紙をドアのガラス部分に貼ると蒼の後について学校をでた。
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