□お礼のお礼のお礼
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トリオ漫才を見ていた、琴乃が1つ咳払いをした。

「論点がズレているようですけど」
「まぁまぁ、良いではないですか。私が招待したかったんですよ」
「琴ちゃん。みんなおいしそうだよ。だから、御馳走になろうよ」
「そーですよー、センパーイ。あんまー気ィ張ってもーしょーがないとー思いまーす」

由愛と紘都に促され、琴乃も渋々席についた。

「それでは、グラスをお手に」

田中さんの合図で、さっと蒼たちが、琴乃たちの空いているグラスに赤い液体を注ぎ始めた。

「皆さんの再会を祝して、乾杯」
「かんぱーい」
「かんぱぁい」
「……乾杯」

そして、一口。

「ゴホッ……これ、ワイン」
「お酒の味がする」
「えぇ。森さんや藤原さんが生まれた年の赤ワインですよ」
「いや、未成年なんで」
「別にータローさんがーいーってー言ってるならーいーんじゃーないですかー?」
「で、でも。さすがに、高校生でお酒は…」

紘都以外、困り顔だ。というか、琴乃に至っては、半分ほどキレていた。

「ですから、旦那様。申し上げたではありませんか。彼女達は未成年だと」
「英国だと16歳の子供が飲んでいたので、つい。すみませんでしたね」
「旦那様。英国でも、ワインは18歳からですよ」
「そうだったかな」
「海外と日本で法律が違うんですね。初めて知った〜」
「悪かったな。琴乃嬢。藤原嬢。旦那様、あぁ見えてもずっと海外飛びまわってるから日本の法律に疎いんだ」
「そうなんだ。大変ですね」

そんな話をしている間にも、紘都はグラス1杯分のワインを飲みほしてしまっていた。

「ふぅ〜。おいしかったでーす」
「ひ、紘都君!? 大丈夫?」
「ふぇー!? なにがれすかー? らいじょーぶれーすっ!!」

紘都の頬がほんのり紅くなり、呂律が回りきれていない。これは、間違いなく、酔っていた。

「どうするんですか? 酔ってますよ、彼」
「琉聖、広島君を部屋に」
「あ、はい」
「ふぁ? 俺ならーらいじょーぶれーす」

大丈夫を連呼する紘都は、琉聖に抱えられ、別室へと連れて行かれた。

「申し訳ありませんね。やっぱり、シャンパンにすべきだったかな」
「いえ、旦那様。シャンパンもお酒です」
「そうか」

蒼にバッサリと突っ込まれ、何やら考えるふりをしていた田中さんだったが、すぐにもとの笑顔に戻り、今度は琴乃達に食事を進めてきた。

「蒼、森さんたちに代わりの飲み物を」
「はい」
「さぁ。どれも蒼達が腕によりを掛けて作ったものばかりですよ。召し上がってください」
「わぁ〜い。いただきま〜す」

そして、一口。

「おいしぃ〜!! すごいっ!! レストランでご飯食べてるみたいです」
「そうですか。それは、よかった」
「琴ちゃんも食べてみなよ。おいしいよ」
「……いや、知らない人から出されたご飯ってあんまり…」
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、そういう問題じゃなくて」

蒼が悲しそうな顔を作った。これも、計算でやっているのだろう。琴乃はそんな蒼を無視した。

「一体全体、今日は何のために呼んだんですか?」
「それを、お答えしないと食事には手をつけられないということですか?」
「ですから、さっきから何度も同じことを聞いていると思いますけど」
「それは、お答えできませんね」
「何故ですか」
「言ってしまったら意味がなくなるからです」

この田中さんの言葉を聞いて、琴乃は盛大な溜息を一つついた。
このくそジジイ何を言っても無駄だ。心の中でそう思っていた。

「琴ちゃん。食べよ? せっかくのお料理が冷めちゃうから」
「はぁ。そうだね」

それから、しばらくは食事の音が室内に響いた。
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