年間行事

□定期演奏会っ!!
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そんな頃、屋上では琴乃が田中さんと電話をしていた。

「次の日曜に……撮影はほどほどでお願いします……はい。……戦争なんてことにはならないと思いますけど。はい。真面目な演奏会なんで……はい、はい。失礼します」

電話を切り、ボーっと校舎を見ると向かい側の校舎をウチの部員達が走り回っていた。

「何やってんだか」

どうせまた、いつもの遥の思いつきだろう。ほっとこう。
そう思い、部室に戻ろうとすると、そこにもう一人よく見知った人物がいることに気付いた。

「新・・・」
「んぇっ!?」
「今の電話、聞いてた?」
「んぇっ!?」

新はどこか上の空で、ボーっとグラウンドを眺めていた。

「・・・何してるの?」
「んぇっ!? 緊張」
「いや・・・そうじゃなくて、今ここで何をしているのか聞いてるんだけど」

・・・・・・

「んぇ?」
「はぁ。新でも緊張するんだ?」
「する」
「コンクールの方が緊張しない?」

*琴乃と新は同じ中学出身で、同じ吹奏楽部だったのだ。

「両方する」
「そう」
「緊張しないの?」
「別にしないかな」
「んぇ。もう、ダメかもしれない…」
「大丈夫、でしょ。何とかなるって」
「んぇ。ならない…」
「はぁ。じゃぁ、新が、定演に向けて頑張ってたコト、皆知ってるから。大丈夫」
「大丈夫・・・?」
「大丈夫、大丈夫。人生なんて、なるようにしかならないんだから」
「んぇ。失敗したら・・・?」
「それも、思い出の一つでしょ」
「でも、失敗よりは成功の方がいい」
「まぁ、そりゃそうだけどね。って、これ励ましてないか。はぁ、何て言ったらいいんだろ。遥とかなら、的確な言葉が出てくるんだろうけど・・・。でも、まぁ、大丈夫でしょ」
「んぇ、大丈夫じゃない」
「・・・じゃぁ、一緒に失敗したらいいんじゃない?」
「んぇ!?」
「新がミスった時、一緒にミスるよ。そうしたら、共犯でしょ?」
「・・・いいの?」
「これも思い出だしね」
「うん・・・」
「元気、出た?」
「うん」

新の表情がさっきより、少しだけ明るくなったような気がするのは、気のせいではないと思う。

「ねぇ。さっきの電話、彼氏?」

・・・どうやら、いつもの調子が戻ってきたようだ。

「違うってば」
「んぇ。だって、ヒミツの電話」
「はぁ。ほら、部活行くよ」
「うん」



と、そんな時、向かい側の校舎の廊下を全力ダッシュしている真由と心愛の姿が見えた。

「とりあず、どっか隠れた方がいいんじゃない?」
「じゃぁ、その辺の教室に入る?」
「そうだね」

真由と心愛は、手近な社会科準備室に飛び込んだ。

「ってか、珍しい組み合わせじゃない?」
「確かに。真由、千波はどうしたの?」
「靴ひも結んでるうちにどこか行っちゃった」
「おいおいおい」
「そういう心愛こそ、舞や花子と一緒じゃないの?」
「いつもアイツらと一緒にいるわけじゃないから」
「そうなの?」
「当たり前」
「おや。前田さんに菅原さん。どうかしましたか?」

急に名前を呼ばれ、振り返ると、そこにいたのは吹奏楽部顧問の坂井先生だった。

「あれ、ここって社会科教室!?」
「そうですが。今は、部活中じゃないのですか?」
「あ、えーと・・・ねぇ? 真由」
「あ、うん。えっと、そう! 定演前にちょっと体力づくりを。ね? 心愛」
「あ、そうそう」
「そうですか。でも、ほどほどにしてくださいよ」
「「はーい」」
「まぁ、お茶でもどうぞ」

坂井先生は日本茶を心愛と真由の前に差し出した。

「ありがとうございます」
「ありがとうございまーす」
「定期演奏会の準備は万全ですか?」
「う・・・」
「まぁ、ね。なんとか」
「できてるの? 心愛」
「まぁ。ソロないし」
「いいなぁ〜」
「真由のペットソロ、カッコいいじゃん」
「だって、あの立った瞬間にスポットライト? アレが当たるのがハズいよ」
「遥はそれが良いって言ってたけど」
「遥は何か違う世界の人だから」
「まぁ、それは否定しないけど」
「はぁ〜」
「新に押し付けらんなかったの?」
「え? 押し付けたよ2つ」
「押し付けたのかよ」
「うん。さすがに全部押し付けるのは先輩としてどうなのかと思って、1つはソロすることにしたけど…やっぱハズい」
「まぁ、それは…ガンバ!!」
「超ヒトゴト!!」
「まぁね」
「それ、胸張って言うことじゃないからね」
「菅原さんは失敗を恐れているのですか?」
「え? あ、はい。せっかくの定演で失敗なんてできないし…」
「失敗を恐れていては、何も始まりませんよ」
「まぁ、そうなんでしょうけど…」
「緊張はどうにもなんないよね」
「うん、うん」
「その緊張を少しでも和らげるために、今できることをすべきではないのですか?」
「今、すべきこと…」
「それって…」
「まぁ、1つしかないよね」
「・・・練習?」
「だけじゃね?」
「そう・・・だよね」
「ふぅー。部室、戻る?」
「そうですね」
「練習、頑張ってくださいね」
「「はーい」」
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