箱庭聖譚曲

□6.遭遇
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潤んだ碧の瞳に自分の姿が映ったのを見て、エリオットはようやくお互いの距離が近いことを自覚した。


「っ!」

『……?』


慌てて離れるとルナは不思議そうに首を傾げる。



第三者がその場にいたら指摘したかもしれないが、二人はさっきからすれ違うようにして顔を赤く染めていた。
照れるツボが違うのだ。





ルナが脱ぎかけのソックスに手をかけているのを目にして、エリオットはまた怪我の様子を尋ねた。


『……このくらいなら大丈夫』


ルナはそう言うが、踝よりも上一帯は内出血で変色している。痛くないわけはなかった。
打ってしまったエリオットとしては責任を感じるのである。




「あー、その、なんだ………悪かったな」


『……何故謝るの?』


「その怪我」


『……貴方が剣を下ろしたところに、私がいきなり飛び込んだのよ』




――謝るのは私の方だわ。




『ごめんなさい。わざわざここまで連れて来てもらって。……重かったでしょう』

「まだ重いとか言ってんのかよ」


ルナが顔を俯けると、エリオットは気にするなと言うようにルナの髪を撫でて上を向かせる。


「むしろもっと肉をつけろ、肉を」


触っても嫌がられないことに満足感を覚えたエリオットは頭をそのまま掻き混ぜた。
その上に手を重ねる彼女。


『やめて』


そう言う声は照れ臭そうだった。










「――仲がよろしいのですね」









二人して肩をびくりと震わす。
いきなり聞こえた言葉のためだ。


その高く甘い女の子らしい声に、ルナは聞き覚えがあった。





「ごきげんようエリオット様、ルナさん」


『……お久しぶりです、ミス・ミリエル』





エリオットは彼女を知らないようで、友達か?と目で訴えてきた。
ルナは本人がいる手前、明言は避けて複雑な表情で返す。



ミリエル=アウルファンド


「ここ二、三日、エリオット様とリーオ様、それにルナさんが一緒にいらっしゃるのをよく見かけると専らの噂なんですよ」


上品、清楚、美人で評判の……



「御三方は同級という以外に何か接点がおありで?」


……皮肉屋である。



嫌な人と遭遇した。

ルナはミリエルが非常に苦手だった。
彼女はまるで娯楽のようにルナを皮肉りまくるからだ。

入学してから去年までの三年間、ずっとクラスが同じだったのは不運としか言いようがない。

ちなみに“主を離れた従者”は彼女の命名だという。


まぁよく上手いことを考えるものだ。
……暇なお人。


これが、それを初めて言われた時のルナの感想であった。












一方、ミリエルと今初めて対面したエリオットの、彼女に対する印象は


気に入らねぇ


の一言に尽きた。



笑い方
敬称の使い方
語尾の上げ具合
話の内容


すべてがルナを嘲っているようにしか思えない。


一見したら差別などしていないふうに見えるが、ルナのことを快く思っていないのは確実だろう。


「ああ、そういえばルナさん」


ミリエルが笑う。

ほら、その笑い方が――……










「エイダ様はお元気?」










――“エイダ”様

その名前を聞いて、思考が止まった。






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