箱庭聖譚曲
□11.少女
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「おんどりゃあ覚悟は出来とるんじゃろうなぁぁあ!!?」
「楽に死ねると思うなよギルゥゥウラァ!!」
「ええぇええ!!?」
『……お二人とも、お言葉使いとお顔が』
逃げるギルバート追うオズとオスカー。
更にそれを追うエイダとアリス。
「人の話を聞いてったら!」
「コラ!! オズ!! 私を置いて行くな!」
……さながら嵐のようであった。
みんなが全力で走るものだから、松葉杖をついているルナはとてもじゃないが追いつけない。
『……ゆっくり追いかけましょう』
当初の目的は主の護衛だったが、噂の侵入者が身内だと分かったので急ぐ必要もあるまい。
その時、オスカー達とは別の人間が違うルートで侵入していたことを知らないルナは、勘を頼りに呑気な歩を進めるのであった。
*****
廊下の角を曲がったところで、ルナは座り込んだ二人組――黒髪の青年とツインテールの少女を見つけた。
「白い服は落ち着かない!!」
『いいんじゃないですか』
「! ルナ」
足音はもちろん、松葉杖の音も消していたからだろう、急に現れたルナに青年・ギルバートは驚く。
『……似合ってますよ、先輩』
そう言うと、ギルバートは「嬉しくない……」と、とても嫌そうな顔をした。
ルナはその横で壁にもたれて座り むくれているアリスに、しゃがんで話し掛ける。
『……如何いたしました?アリス様』
「むぅ……」
小さな子供のみたいに唸るのが、彼女には可愛くてとても似合っていた。
「オズがあの女と一緒にいるのかと思うとだな」
『はい』
「なんだかもやもやとするのだ」
『……ああ……では、アリス様のためにも、早くオズ様とエイダ…様を見つけなくては』
「……うむ、そうだな。よし、早く見つけて来い鴉!」
「なんでオレなんだバカウサギ!!」
「お前は私の下僕の下僕だ。当然だろう」
少し話したらアリスはもとの調子を取り戻したようだった。ギルバートに命令を下す顔はこの上ないほど生き生きとしている。
……アリス様は、こっちの表情の方がいいです。
二人の言い合いを眺めつつぼんやりと考えていると、アリスに不意に尋ねられた。
「なんでお前……ルナは私を名前で呼ばないんだ?」
『は、い……?』
「アリス様アリス様と、まるで私とお前が違う位置にいるもののようだ」
なぜと聞かれても困る。
実際、アリスの地位はルナよりも上だからだ。
……できれば私は、黒うさぎ――アヴィスについての手がかりでなく、オズの友人として接したいものだが。
目上の人間(アリスはチェインだが)への礼儀を守る。それは悪いことではないし、むしろ当たり前だと思う。
そう告げると、アリスはそういうものなのか、と腑に落ちない様子で片眉を上げた。
しかしそれから数秒後には手を腰に当てて踏ん反り返る。
「まあ、人間ごときの矮小な頭ではそんな結論に達するだろうな。だが私をお前達と一緒にするな!」
「黙れバカウサギ、声がデカイ!」
またギルバートとアリスの喧嘩が始まるなか、ルナは懐かしさを感じていた。
アリスの怒鳴り声が、なにかの琴線に触れたのだ。
そう遠くない過去。つい最近のこと。
「いいかルナ!このアリス様に人間の常識を押し付けるな!」
それを思い出したくて、ルナは静かにアリスの言葉に耳を傾けた。
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