箱庭聖譚曲

□1.衝突
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貴族の血をひいていない私がラトウィッジという上流階級の学校に通い始めたのは3年ほど前の話だ。



貴族の血をひかぬ貴族。

養子養女など、そんな人間は多数いるが、私が養女に入った家は貴族ですらなく。
一応 従者という立場にいるものの、守るべきその人は残念ながら二つ年上。従者というからには主のことを身を呈して守らなくてはならないが、私にはそれが出来ないのだ。この学校にも飛び級の制度ができれば良いのに、と何度となく思った。

当然、自分自身の役目も果たし得ない私へ、周りからの不満の声が募っていった。


――何故あのような下賎の民が。

――主の側にもいられないとは。

――あの方もこんな者を従者にお選びになって……。

――今、この間にも何か危険なことが起こっていたらどうなさるのかしら。

――これでは“従者”ともいえないでしょう。





……そんなこと、



私が一番、良くわかっているのよ。





私が貴族でないことを気にせずに話し掛けてくれる人達もたくさんいる。

けれど逆がいるのもまた事実で、今のところ半分ずつくらいだろうか。
生憎 私は地獄耳だ。
それに、他人よりも多少図太い神経がこの学校に来てから過敏になったらしい。
……悪口の方がよく聞こえる。



貴族社会は、おおらかで優雅であると同時に、探り合い落とし合いの世界。
友人達と豪華にお茶会をするも貴族、悪い噂を流して失脚させるも貴族。どちらも一族を繁栄させるのに必要なスキルである。

ああ、私は恰好の練習台だろう。

しかし 私の主の家が怖くて直接に手を出せない。告げ口などされた日には向こうが堕ちる。


そう思えば、よかったことがある。
私の主には火の粉が降りかからないから。私を、従者にしてくれると言ったあの人に


せめて、迷惑がかかりませんように。


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