箱庭聖譚曲
□4.物語
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「お前の主人は誰だ?」
エリオット=ナイトレイがルナを問い詰める様子は、なかなかに珍しい光景だと思われる。
ルナがエイダ=ベザリウスの従者だと知っているクラスメイトの半数は面白そうにそれを眺めていた。
『……ミスター・リーオ、何故……』
誰かに聞いたらダメ
+
ヒントが見当たらない
‖
直接問いただす
『…って方程式が出来てるのかしらね?』
「ああ、エリオットは馬鹿だからね」
「おいリーオ、お前はどっちの味方だ!!」
「ほらね、馬鹿でしょ?」
――そして、
『…………ふっ……、ふふっ』
ルナが声を上げて笑う様子もまた非常に珍しい光景だと言える。
無言 無関心 無表情
三拍子揃えて学園生活をおくってきた彼女が人間らしさを見せる機会はこれまで皆無であった。
学園の上級生にも「生意気」「愛想笑いのひとつも出来ないなんて」と言われてきたルナである。
笑った顔などを見たのは主であるエイダを除けばエリオットただひとりだろう。
目を細めた彼女を見て、その場にいた男子は頬を赤らめる。
白い肌、まっすぐな焦げ茶色の髪、翠玉の瞳、上手い具合にパーツが配置された顔、細く伸びる手足と小柄な身体。
ルナは誰が見てもれっきとした美少女で、本来なら交際の申し込みが数多あってもいいはずの人種なのだ。
それがなかったのは ひとえに彼女が“無の三拍子”を揃えていたためであり、とっつき難かったからである。
やはりこの少女は笑っている方がいい。
無表情の時よりも瞳に優しい光が宿る。
そんな魅力を昨日から知っていたエリオットは若干の優越感と得体の知れないもやもやした感情を心中に抱えていた。
……なんつーか、
笑ってる方がいい。
いいとは思うが……
なんか気にくわねぇ。
周囲の視線を遮るようにして、座る少女の前に立つ。
「――で? 誰なんだ?」
『……ああ、もう時間だ』
無表情に戻ったルナはわざとらしく時計を確認し席を離れた。
「おいコラ逃げんな!」
「エリオット、ミス・ルナは委員会の仕事だよ」
「……委員会?」
怪訝な表情をする主人に従者はやるせないため息をついた。
「君って本当に何も知らないよね」
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