箱庭聖譚曲
□5.騎士
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ラトウィッジは貴族が通う名門校だ。
そのため貴族の使用人――付き人、従者と呼ばれる者も多い。
授業内容、役割、待遇、
学園内において全て平等に扱われる主人と従者の双方だが、一つだけ、決定的な違いがあった。
選択授業で、数多ある選択肢の中から、従者は必ず“銃技”“剣技”のどちらかの選択が義務付けられているのだ。
もちろん従者以外の人間も選択出来る授業だが、好んで武器を振り回す性格を持ち合わせる学生は、ラトウィッジには少ない。
そうなると当然、ルナとリーオは選択を迫られるわけで、ルナは剣技を、リーオは銃技を選んだ。
そして、
「なんだ、お前は銃技を選択すると思ってたんだがな」
『……嫡子の立場で、剣……?』
エリオットは貴族には珍しい剣技選択者だった。
お嬢様の都合上、女子の従者を使用する貴族は決して少なくない。
しかし選択授業で剣技を選択する女従者は非常に少ない。なぜならわざわざ重くて長い剣を振らなくとも引き金を引くだけで相手を傷つけられ、且つ持ち運びしやすい銃器の方が使い勝手がいいからだ。
ルナの父親は歴史ある剣士の一族だった。
養父ではなく、今は亡き血の繋がった父親だ。彼が死んだのはルナが幼い頃だったが、ものごころついた時から教わっていた剣の振り方避け方は既にこの身に染み付いている。
だから剣技を選んだのだ。
授業が始まったら、まずは剣を選ぶ。
ひとくちに剣と言っても色々とあり、長さ、細さ、重さを基準に自分に一番合ったものを選ぶのだ。これは全て学園側で用意される。真剣で切り合って生徒に怪我をさせないように、剣に刃引きが施してあるためである。
大剣
細剣
双剣
様々な種類がある中、エリオットは標準のを手に取った。これが一番自分の剣に似ていたからだ。
「今日は実習だ。実際に何人かとやり合ってもらう」
剣技場に教師の声が響き渡った。
動くとは言え的を撃ち抜けばいい銃と違って、剣技は刃を向けて来る敵と近距離で戦わねばならない。考え動く人間との対戦は授業にも必須だった。
慣れないうちは男女別に実習を行うものなのだが、剣技には女子が少な過ぎる。この学年ではルナを含めたったの六人だ。
「女子は人数が少ないから、必ず全員と戦うように」
隅の方で剣を吟味していたルナは、その指示を耳にしてちょっと憂鬱な気持ちになった。
…………面倒くさい。
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