箱庭聖譚曲

□8.告白
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ルナ=ルーンフォークとエリオット=ナイトレイは付き合っていない。





しごく当たり前のことを確認したら、周りにいたお嬢様は「なんだ……」という顔をした。


半数は安堵のため息。
これはエリオットに想いを寄せる者だから分かるが、
もう半分は何故か残念そうなため息をついていた。



『……何故、ため息をつくのです?』


「いえ、これでお二人が良い仲なら面白い……もとい、とても興味深いなぁと……」


『…………』



ルナは冷たい視線を向けた。

知っている。
私はこれを知っている。

どこかの女公爵の孫娘のお姉様に、こんなのが好きな方がいた気がする。



……ああ、お嬢様とは他人の恋の話で酔っ払う習性があるのですか?



ルナは疑わずにはいられなかった。








 *****



エリオットとルナはお互い一言も言葉を交わさないまま午前中を過ごした。


……怒鳴ることもしないなんて、相当怒っているのね。
もしくは話すのが嫌なほど嫌われたか。





そして訪れる昼休み。





『申し訳ないけれど、委員会の仕事があるのでもう行きます』



いつものようにお喋りに興じる中、ひとり席を立って松葉杖をつく。



「あら、今日も委員会があるのね?」


『明日は午前授業ですし、今日のうちに片付けを終えてしまおうと先輩と話していたの』



ルナが歩き始めるとタイミング良く教室のドアが開き、見覚えのある顔が覗いた。





「やぁ、ルナちゃん」


『……テッド先輩……?』



何か用事だろうか。これから図書室で顔を合わせるというのに、わざわざルナの教室まで来るなんて。



「怪我をしたって聞いてね。迎えに来たんだよ」


階段とか、大変じゃない?


『……お気遣いありがとうございます。とりあえず不便は無いので』



階段くらいその気になれば片足で軽々と降りられる。母から教わった軽業だ。



「そっか、余計なお世話だったかな」


『いえ、そんなことないです』



ルナがふるふると首を振るとテッドは嬉しそうに笑う。



「じゃあ行こうか」



そしてルナはテッドにエスコートされるようにして教室を出て行った。






教室内にいた人間は恐る恐るエリオットを振り向いた。





イライラ、


イライライライラ


イライライライライライライライラ




いつかのようにイラついている。

黒いオーラを発しているのが目で見て取れた。


様子を伺うクラスメイトをエリオットが睨みつけると、皆急いで目を逸らした。









「……そんなにイライラするなら意地張ってないで話せばいいのに」


触れたら爆発しそうな彼に話し掛けることが出来るのはリーオくらいであった。



「るせぇ、ガキの喧嘩じゃねえんだ」


「そうだね、君のはガキの八つ当たりだ。僕は言ったよね。言わなくても君は分かるはずだ。100年前の英雄、それが何?」



リーオは更に淡々と続ける。



「彼女は裏切り者だからといって僕らにそういう態度をとらなかったよ」


「…………」



返す言葉も無い。

リーオはハァと深いため息をついて立ち上がった。



「僕は図書室に用事があるけど、エリオットも聖騎士物語は読み終わった?」









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