箱庭聖譚曲
□11.少女
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エイダとオズが感動の再会を果たしている間、ルナはオスカーとギルバートに挨拶を済ませた。
オスカーは自分の恩人であるし、エイダを仲介にギルバートとも面識がある。
エイダが涙している最中、腹を立てたアリスとギルバートの乱入によって暖かな場面は台なしになり、オスカーの成敗によってオズの争奪戦はおさまる。
「ええっ、みんなが騒いでた不審者って叔父様達のことだったの?」
『……考えれば分かるでしょう、エイダ』
オスカー様なんて年甲斐もなく制服を着ているのだし。
呆れたため息をつくルナだが、昔からエイダのボケているところはどうにもならないことは知っている。
「いやーおまえの顔が見たくなってなー」
「もう、しょうがないんだからー」
((それでいいんだ……))
『はぁ…………』
……ついでにオスカーがエイダを乗せるのが上手いのも知っている。
「ギルも、こうしてお話しするのは久しぶりね」
「はい…そうですね」
その後、エイダとギルバートがほんわかと話し出すとなぜか空気の色が変わった。
発信源はオズとオスカーの二人だ。
刺々しいというか、黒いというか……
異様な反応の二人が気になったルナはギルバートに心当たりがあるかと尋ねてみた。
「……お二人に何かなさったんですか、ギルバート先輩」
「い、いや、そんな覚えは……」
ルナがギルバートのことを“先輩”と呼ぶのは、初めて会った時に“ギルバート様”と呼んだら「やめてくれ」と即答され、『じゃあベザリウスの使用人として“先輩”って呼びます』…そういう流れになったからだ。
彼はベザリウスを離れてなお、オスカーやエイダに対して使用人の態度を崩すことがない。もっとも、オスカーを目にするたびに彼が逃げていたからルナはエイダとギルバートのやり取りしか知らないのだが。
貴族の養子になってしばらく経つのだからそろそろ様付けに慣れてもいいころだろうに。
ちなみにパンドラに行く時はちゃんと“ギルバート様”と呼んでいる。
「エーイダ? 叔父さん達な?このレターの追伸について聞きたいんだけどな?」
「え……手紙……!?」
ルナが何のことかとオスカーから震えながら差し出された手紙に目を走らせると、
―追伸―
好きな人ができました
『…………』
そして顔を上げる。
殺…!
見るからに正気でない、主の叔父と兄の殺気は明らかにギルバートに向けられていた。
なるほど。
たしかに今、エイダはギルバートを見て顔を赤らめたが、彼は主の想い人ではないとルナは思う。
エイダに好きな人が出来たことは彼女自身から聞いて知っていた。
その話を聞いたのは去年だ。
相手が誰なのかは教えてもらえなかったが、もしもギルバートならば顔見知りであるし いくらベザリウスとナイトレイの関係が悪かろうと照れていようと教えてくれないわけがない。
従者として、主からそのくらいの信頼は得ていると自負している。
……だがしかし、エイダが言おうとしないから聞かないだけで、ルナも相手が誰なのか気にならないわけではないのだ。
そんなに素性を教えられない人間と会っているのか。
ただでさえ警戒心の薄い彼女が、変な輩に騙されたりしていないか。
エイダのことになると過保護で心配性になる。そういった感情を表情や言葉で表すのは苦手なルナだが、主従関係抜きでエイダを贔屓する性格はオズとオスカーそっくりだった。
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