箱庭聖譚曲

□12.少年
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「おいリーオ、行くぞ」



どこに?

エリオットの手にしたスコアブックを見てリーオはその問いを引っ込めた。

代わりにため息を吐き出す。



「さっき侵入者があったって言ったばかりなのに……」

「そんなもん知るか」



帰ってきた時に脱ぎ捨てたベストと上着を着直し、ソファーの上の本を拾い上げる。



「あれ、図書室も行くの?」

「ああ」



彼の不機嫌は未だに健在だ。


ミス・ルナに仲を悪くするつもりは無いんだから、何事もなかったみたいに話せばいいのに。それくらい許してくれると思うよ?



ミス・ルナがミス・エイダ=ベザリウスの従者だと知って、タイミング悪く告白されている場面なんて見てしまったものだから顔を合わせにくいのは分かるけどさ。




ルナの雰囲気はここ数日でとても柔らかくなった。誰もが感じていることだろう。
この調子だと これからもっとルナに惹かれる輩はたくさん出て来るとリーオは思っていた。



しかし昨日今日はどうだろう。


少し前に戻ったように無表情…というか沈んだ表情ばかり見せている。

ルナとエリオットが口をきかなくなってからだ。



それは少なからずエリオットが彼女の心を和らげたということ。

主であるエイダでも届かなかった、心の奥深くの氷を溶かしたということ。



だけど、エリオットはそれに気付いていないみたいだ。


そして、どんな理屈をこねたって自身がミス・ルナを嫌って――憎めていないことにも気付いていない。……というより認められてないのかな。





女々しくいつまでも煮え切らないのは彼らしくないと思うけど、こればっかりは自分で解決してもらわないと。



多分、あとは全部エリオット次第だ。



分かるでしょう?






君はもう、ミス・ルナの手を振り払えないんだ。






そっと伏せた瞳を眼鏡の奥に隠しながら、リーオは主のために扉を開いた。



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