箱庭聖譚曲
□21.契機
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きっかけなんて、いつも些細なもので。
小さい偶然がいくつも重なって、嵐ほどの大きな風が吹く。
私達は、それを言葉で表す時、
『必然』もしくは、『運命』と云う。
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『……レベイユに?』
もうすぐでラトウィッジ校は長期休暇に入る。だが、その前に当たり前のように立ちはだかるは試験という名の悪の時間だ。
国の中でも名門と名高いこの学校は学ぶ教科が幅広くその内容も深い。
昨日 今日 明日と三日間もかけて行われる試験は確実に生徒の精神力を削っていた。
夜、試験の勉強はしたいが眠いルナは、『寝不足によって頭の回転数が少なくなるのもあほらしいか』と早々に結論を出し、ココアでも飲もうとキッチンに立つ。
するとひょこっと顔を覗かせたエイダが、なにやら言いにくそうな表情で「休暇中にレベイユに行く」と告げてきたのである。
『……何か心配事でもあるの?』
「う、うん…その、ルナは」
『大丈夫よ、私も行くから』
「あ、ち、違うの!」
ルナはエイダの従者だ。たとえ長期休暇中の自分の時間であろうとも主について行くのは当然のこと。
エイダがベザリウスの家に帰るよりも先にレベイユに行きたいと言うのは非常に珍しい事だが、それで気後れして言いにくそうにしていたのかと思うと、どうやらそれは違ったらしい。
「あのね、ルナには、お留守番しててもらいたいっていうか……あっ、邪魔なわけじゃないのよ!? でも、そのっ、」
『……いいわ、大丈夫』
要はついてきて欲しくないということだろう。自分を気遣かってしどろもどろになりながら弁解する姿にクスリと笑みがこぼれた。
――“好きな人”か……。
エイダがこう言う時は決まってそうだ。
ルナが要らないということは従者と同時に護衛も外すということ。
エイダが過去この態度を取ったのは“好きな人”に会いに行く時だけだった。
『……もう一度確認するけれど、その人といれば貴女の安全は確保できるのね?』
「うん」
『じゃあ、ベザリウスの家には内緒よ』
「ありがとうルナ!!」
エイダがルナやオスカーに言えないこと、それはつまり誰にも言えないことだ。
(…ということは、相手は庶民かしら)
エイダの“好きな人”が庶民よりもよほど厄介な人物だと知らずに、エイダが安全なら、エイダが幸せそうなら、相手の名を聞くのはまだ待とう。誰にも言わないでいよう。
そんなこと思ったルナだった。
……やっぱり、気にはなるけれど。
「あ、ココア、私にもちょうだいっ」
『……うん』
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