おお振り

□二人旅行、夏の一時
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大学生になって初めての夏休み、水谷と栄口は埼玉県を、更に言うと関東を出て山梨県へとやってきた。
高校生の頃には、とてもじゃないができなかった2人きりでの旅行。
バイトをして貯めたお金でやっと行くことが叶った。
2泊3日のこの旅行の1日目は、現地に昼過ぎに到着した。
湖に行くことが目的で、2人は白鳥の形をした、ペダルを漕いで進むボートを借りた。
ペダルを漕がなければ進まないので、2人して結構な距離を漕いで移動した。
ハンドルの操作を水谷がしたところ、思わぬ方向へ動いたため、すぐさま栄口に交代したのだった。
この旅行のメインは2日目にある。というわけで、湖で遊んだ2人は、2日目の目的地に近い場所に宿泊した。
そして2日目。足に僅かな痛みを感じながら、2人はある場所へと向かった。

「こういうところは、小さい子が楽しめるものって限られてるんだよな」

「そうそう。年齢とか身長の制限のある乗り物が多いし」

「…水谷、まずはあそこからでいいんだよな?」

「うん」

2人が訪れた場所は、この県で有名な遊園地だった。
この遊園地の魅力と言えば、絶叫マシーン、これだろう。
1番の目玉のコースターは、最大で80m近くまでの高さにいく。
速いものや、落下の角度が90度以上のものなどもある。
数々のアニメのアトラクションも有り、子どもも楽しむことができる。
まず2人が向かったのは、最近できたばかりのコースターだった。

「最大落下角度121度…どんなだろう」

「乗れば分かると思っても…あ、やばい、お腹痛いかも」

「ちょ、栄口、大丈夫?!」

「ははは、何とか。あ、次乗るみたい」

「お互い、頑張ろうな」

水谷のその言葉に、栄口は黙って頷いて答えた。
顔色が悪く見えたのは、きっと水谷の気のせいではない。

*****

何故、落下姿勢で一時停止する必要があったのか。
そして、その直後に落下角度121度が待ち受けているのか。
怖いなんて一言で片づけられるようなものではなかった。

「あれ考えた人、絶対頭可笑しいって!なあ、栄口もそう思…って、」

「はは、何かくらくらするかも…」

「わー、栄口しっかりー!!」

空いているベンチを見つけると、水谷は栄口をそこに座らせ、一旦その場を離れた。
数分後、冷たい飲み物を持って戻ってきた。

「ほら栄口、お茶…」

「ありがとう…」

「…少しは落ち着いた?」

「何とか。…なあ水谷、観覧車乗らない?」

「…賛成」

このまま、また絶叫マシーンに乗るには、まだ乗る前ほど落ち着いていないと思った2人は、ベンチから立ち上がると観覧車に向かって歩き
出した。
少数のゴンドラが透明なようだが、2人はそちらには見向きもせず、普通のゴンドラの列に並んだ。
ゴンドラに乗ってしまえば、静かな空間が出来上がる。
遠くから誰かの悲鳴が聞こえてくるが、あまり気にならなかった。
特に話すこともないのだが、それでも黙ってしまうと静かになって何だか気まずくなるので、2人は他愛のない話をしながら楽しんだのだった。


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