おお振り

□キミイロ
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退屈な毎日だった。


普通の日々をだらだらと普通に過ごしていた。



楽しみなんてあまりなくて、クラスメイトと下らない話をして過ごしたり、音楽聞いたり。

少しの起伏しかない楽しみは普通の一部になっていた。


高校生になったってそれは変わらないと思ってた。


けど、キミの声を聴くだけで俺の世界はこんなにも色を変えたんだよ。











ポーン、という音が、今日の校内ラジオの始まりを告げた。


教室の中は弁当を食べている人で溢れていて、少し騒がしい。

その中にちらほらとラジオに耳を傾ける人がいる。


俺もその一人。

机に突っ伏して聴覚を研ぎ澄ませる。



『〜こんにちは、2−1のヒーロー佐藤です』


お便りを読んでるのは優しい、フンワリとした声の栄口だ。

実をいうと、この栄口の声聞きたさにラジオを聞いている。

毎週水曜日に栄口の当番が回ってくるから、いつも水曜日が待ち遠しいんだよね。


『こんにちは』


返事をしたのは9組の泉。

俺は別に9組には自ら行かないけど、俺の友達…というか、同じ野球部の阿部と花井が行くときについていく。

泉は何故かいちいち俺をからかってくるから覚えてしまった。


『俺が流してほしいのは、FLOWERの「愛すべきあなたへ」です』


『この曲流行ってますね〜。俺も教室で聞いたことがありますよ』


『いい曲ですよねー。俺も好きです』



栄口も好きなのか、じゃあ俺もプレーヤーにこの曲入れよう。


新しい栄口をまた一つ分かったことでふにゃんと自然に頬が緩んでしまう。



出来たら栄口と友達になってみたい。

こんな気の合いそうなヒトいないし。


同じ一年だから、会えたらいいなぁ…


そんな淡い期待を胸に膨らませながら廊下に出る。


曲になったから我慢してたトイレに向かう。




「ハンカチ何処やったけなー」


手を振って水を飛ばしながらポケットを覗いてみてると


「あーやばいよーっ!!」


バタバタと誰かが慌ただしくトイレに駆け込んできた。

ドア近くの蛇口にいたもんだから、思わず飛びのいてしまう。


「うわぁっ!」


「えっ、あっ!ごめんっ!!」



「ううん…、大丈夫」


ちょっと待って。


まさか、


この、


フンワリとした聞き覚えのある優しい声は……!!


「栄口?!」


「え、えーっと…」

誰だか思い出せない、という顔で栄口は俺をみてる。

そりゃそうだ、初対面だもん。


「放送、いっつも聞いてるよ!会いたいなーって思ってたんだ。俺、ファンだから」


あ、そうなんだと目をパチクリさせて、栄口はにっこり微笑んだ。



かわいい……!!



「ありがとう」


「いやっ、俺が勝手にファンになっただけだし!!」


なんだか口を開けば開くほど変なことを言っちゃいそうで焦ってしまう。



例えば好きとか……って好きってナニ?!

栄口男だし!!

いや、声とか好きだけどそういう好きじゃ…ってそういう好きってなんだよー!!



「さっ、栄口!!」


「ん、なに?」



おっきくて可愛い目がこっちを向いてる。

なんだか、見られてるって意識しちゃったらドキドキが止まないよ〜〜!



「そ、そのー」

お友達になってくださいってベタ過ぎるかなぁ…


ううん、と俺がうなっていると、トイレのドアが開いて誰かが入ってきてしまった。

折角栄口と2人っきりだったのにー!


って2人きりだからなんだよ!!


「栄口、見つかった?」


「泉…!ごめん、探すの忘れてた」


「おいおい、頼むぜ……あ、クソレ」


泉が俺に気付いたみたいで体の向きを変える。

というか…栄口の前でまでその呼び方しなくていいじゃんっ!!

ヒドイ!いじめだよ〜!!


「クソレ?」


「野球部のなかで、こいつはそう呼ばれてんの」


「そうなんだ」


泉が余計なこと言ってるけど、栄口が楽しそうに笑うから何も言えない。



「あ、こんなことしてる暇ねーんだった」


お便りお便りと、泉は奥の個室へ入っていく。

栄口の話によると今日の二枚目のお便りを失くしてしまったらしい。


で、なんでトイレかっていうと、本番前、いつもトイレで練習しているとか。


「そっかぁ、大変だね」


「うん、俺がしっかりしていればこんなことにはならなかったんだけど……」


「栄口のせいじゃないって。俺も探すの手伝うよ!」







―――――







「よかったねー、無事見つかって!」


「うん、まさか教壇の上においてあるとは思わなかったよ」


「捨てられてなくてよかったよなー」


帰り道。


俺と栄口と泉で並んで帰る。

今日は部活が休みだから誘ってみたら、もれなく泉もついてきた。

ほんとはブーイングものだけど、2人きりだとキンチョーするから良かったかもしれない。



「水谷、」


ふわっと、栄口が笑う。

途端にドキドキしてくる俺の心臓。



「ありがとう」



栄口が言うから、

俺も笑いかえして



「どういたしまして」



って言った。



夕日に照らされた栄口の顔は少し赤みを帯びていた。







キミイロ
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