おお振り

□緑の葉っぱの向こう側
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やっぱ、あの子と付き合ってんだろうなぁ。


栄口優しいし、心もきれーだし。


俺、親友ってんなら、応援…しなきゃいけないのか…


応援?


ムリだよ…


そんなの出来るわけじゃん…




何かと理由をつけては1組に顔を出していたのに、行きにくくなってしまって。


気が付けば全く寄り付かなくなって2週間ほど経っていた。



1組と7組だと、利用する階段も違って前を通ることもナイ。


もちろん合同授業は隣のクラスとだけで離れた1組となんてのもナイ。



練習では毎日会うけど、内野と外野で練習メニューが違うことも多い。


モモカンと主将、副主将だけで遅くまで打ち合わせをすることもある。



帰る方向もまったくの正反対。


今まではレンタルショップに行くとかなんとか言って、栄口を誘って行ったりもしていたけど。



つまりは、俺が努力しない限り一緒にいることはないってことだ。


結局、俺が追い掛け回してたってだけ。


栄口にしたら迷惑なヤツに付きまとわれなくなって、ほっとしてんのかもしれない。



はぁ。なんか、落ち込む…






部室のロッカーに入れっぱなしになっている地図帳を取りにいかなきゃまずい、って気付いたのは昼休み。


普段使わないから完全に忘れてた。


で、部室のカギ当番は、幸か不幸か栄口。


久しぶりに1組に入るのは緊張したけど今日は理由があるから大丈夫。


それに「はい」ってカギを渡されるダケ、と思ったのに。



なぜか、隣を歩いている。


しかもずっと黙ったまま。


栄口も部室に用があるの?なんて聞けない雰囲気だなぁ。


ちらりと横目で見ると、栄口はきゅっと口を結んだままでナニを考えているのか見当もつかない。



何ともいえない居心地の悪さのまま、薄暗い校舎を出ると一気に眩しい光がいっぱいになり目がチカチカした。


第一グラウンドでは、昼間の照りつけるような暑さのなかでもサッカーや三角ベースをする生徒の笑い声や、それを応援する声が響いている。


乾ききった土から砂埃が舞い上がる。



えーと、いつも何のハナシしてたっけ?


沈黙が苦手な俺は何か気の利いた話題を探そうとしても、頭の中は真っ白で何も浮かんではこなくて。


しかたなく、グラウンドの方に気を取られているフリを続けていた。




『…水谷さぁ、最近俺のこと避けてるよね』


『へ?』



長い沈黙を破ったのは栄口の方が先だった。


怒ったような、困ったような声がグラウンドの雑踏に交じって聞こえる。



『だって、1組に来なくなったし、練習のあとだってコンビニ寄ってすぐに帰るし…』


気づいてたんだ。


そりゃ気づくか。しつこいくらい会いに行ってたからね。


だって、いつ栄口の口から彼女のはなしが出るのか考えただけでコワイんだ。


脳裏から離れないんだよ


栄口に触れた柔らかそうな白い手とか


女性らしいゆるやかな曲線とか身長差とか



『避けてない、よ』



栄口の隣にいるのが自分じゃないのがイヤなんだ。


見たくないんだ…


きゅっと縮まったように心臓あたりがイタイ。



『うそばっか』



うそ。ばっかり、かも…


隠してるよ。


さかえぐちがすき。


冗談みたいに言ってきたけど、ほんとはすごくすき。


トモダチとかじゃなくって


恋愛対象としてだいすき。


でも、栄口はこんなの困るでしょ。


困らせたくないからね。


ほんとのコトをいうのが一番なんて思ってないから。



『…俺嫌われるようなコトしたかな?』


『き、嫌ってなんかないよッ!』


『じゃ、何で…?』



栄口の心細げに呟いた言葉が風に流されていく。


いつの間にか足は止まっていた。


俯いて、何かに耐えるようにな表情は今まで見たことがない。



ごめんね。


俺がそんな顔をさせてるの?


そんなつらそうな顔しないで。


そんな顔されちゃったら…


いろいろ、がんばって隠してたものとかが。


ぽろぽろ。


ぽろぽろ。



『お、俺ね…』



乾いた唇から、思わず零れた言葉。


ふわりと栄口の視線があがる。


戸惑うように揺れる薄い茶色の瞳。


小さく開いた唇。


すべてに心が引っ張られる。


隠してるものが、溢れそうだ。


必死になって、閉じ込めていた想いが堰を切ったように流れだしそう…


ぎゅっと手を握りこむ。


『俺っ!』


『あ、さかえぐちくんだぁ』


意気込んでいた俺の耳に、オンナノコの声が飛び込んできてぎくりと声の方を向く。


グラウンドが途切れるあたりところで緑のフェンス越しに手を振る彼女。



ふわふわとウエーブした茶色い髪。


白い手が眩しい。



あ…この前の…



『球技大会の練習?』


『うん。バレーボール苦手だから友達と練習中なの』


明るい笑顔で話す彼女の少し離れた場所で数人の女子が円になりバレーボールを追っている。


『あ、そうだ、クッキーごちそうさまデシタ』


当然のようにフェンスに近づいていく栄口の横顔。


『どう?おいしかった?』


『うん。お店出せるんじゃない?』


『またまたぁ。栄口くん誉めすぎだよ〜』


『あはは。ほんとだよ』


『じゃ今度はアーモンド味作ってみるから食べてみてね』



急速に全身が冷える。


クラリと眩暈がした。


にこやかに話すふたりを見ていられない。



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