おお振り

□緑の葉っぱの向こう側
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フェンスの隔たりがもどかしいように、顔を近づけ合っていて。


親密な空気を感じてしまう。



やっぱり…付き合ってるんだ…


そーだよなぁ…


俺、何を言うつもりだったんだろ…



ほのかに頬を染めて微笑む彼女と、それを見つめる栄口。


強烈な疎外感に立ち竦む。


厚くて高い壁、越えられない溝。


息苦しくて頭が痛い。


なんで俺、ここにいるんだ。



『栄口、俺先に行くね』


咽喉に張り付いたような擦れた声しか出なかったけど構わない。


『え?あ、ちょっと待てよ』


足早にその場を立ち去ろうとした俺の後ろで栄口がじゃあなと彼女に手を振ったようだった。


『待てってば水谷。あの子さぁ…』


栄口の声が聞こえたけど、そのまま歩き続けプール下の階段を一気にかけ降りる。



なに?俺の彼女って自慢したいワケ?


かわいい子だねって言わなきゃなんないの?


何も知らないって残酷。


ムリだよ。耐えらんない。


早くロッカーから地図帳を出して教室に戻ろう。


そんで、何もなかったみたいに授業を受けて、いつもみたいに花井と阿部とふざけて笑って…



『サッカー部の副主将と付き合いだしたんだって』




は???



『はふぇぇーーー?』


『はふぇぇー?ってオマエなにその反応』



予想外の言葉にびっくりして振り向くと、栄口が落ち着いた足取りで階段を降りてくる。



『俺いつもグラウンド申請してるだろ、そこでサッカー部の副主将にも会うって教室で話してたら、紹介してってしつこくってさぁ』



なになになに?栄口の彼女じゃナイの?


ほんとに?



『んで申請について行くって訴えるカオがさぁ、ふわふわした茶色い捨て犬が耳垂らして見上げてるみたいでね…』


思い出しているのか栄口の表情は明るくて笑みが零れている。


やっぱりすきなんじゃないの?って思うくらいやわらかい笑顔。



『なんか水谷を思い出しちゃって、ほっとけなくって』


『へ…?』


『そんで副主将に会わせたら、うまくいったみたいなんだよねぇ』


『でもクッキーって…』


『ああ、お礼とか言ってたけど完全に練習だろ。女ってコワイよなぁ』



俺みたいだったからほっとけなかったってことだよな?


あの子と付き合ってるとか、気になるとかじゃなくて。


ヒトの恋路よりも、俺にとってはそっちの方が断然重要なんですけど。



『俺、栄口に彼女が出来たと思ってた…』


『まさかぁ。彼女なんていないよ』


『ね、彼女…欲しい?』


『え?えぇぇぇ!?…あー、どうだろ?水谷はどうなんだよ。お前モテるからその気になればすぐに彼女出来るんじゃないの?』


『お、俺は栄口がッ!』


『うわっ!あぶなッ!勢いありすぎだろッ!』


『へ?わわわッ!ご、ごめッ!』


勢い余ってもう少しで頭がぶつかりそうになってるのに気が付いて慌てて一歩下がった。



落ち着け!俺!


この流れで「すき」はマズイ!


ちゃんと言葉を選ばなきゃ!



『お、俺は…えっと、栄口と一緒にいる方が…楽しい…です…


『すっごい、失速…』


『………はい。すんません…』



…今の俺にはコレが限界。


あの子が彼女じゃないってことは、これからも栄口の一番近い存在ってポジションはキープ出来そうだし。


ほんとは親友なんて言葉に置き換えられるような感情じゃないけど。


栄口の近くにいることが出来るなら多くは望まない。



『俺も…』


『へ?』


『俺も、水谷と…一緒にいたい、よ…』



うつむき加減でポツリと呟かれた言葉。


気恥ずかしそうに聞こえた気のせい?


なんかほっぺも耳も赤い、よ?


どくんと鼓動が大きく響き、熱いものが全身を駆け巡る。



う、わ。


ちょっと。


俺ばかだから、期待しちゃうよ。


ど、どうしよう。


やばい。やばい。やばい。


すきって言いたい。


でも、だめ。


いつもみたいに、かぁるく冗談みたいになんて、言えそうにない。


口から言葉が零れ落ちそうで慌てて口を両手で塞ぐ。



『なにしてんの?』


『ふががっ』


『ぷっ!なにソレ?水谷ってほんと…しょうがないなぁ』


あああ、もう。


こんなに我慢してんのに。


何でココで言っちゃうかなぁ。


その言葉は俺にとってはパブロフの犬。


条件反射なんだから。


でも、カンの良い栄口が気が付かないなんて…


あれ?ほんとに気付いてない、の?




栄口の両手が俺に伸びてくる。


その手は、俺の手首をやんわりと包んだ。




あ、あ、あ。


ダメだよ。


今は。


ギリギリ塞いで零れないようにしてるんだから。




栄口の薄い茶色の瞳はやさしく細まっていて。


口元は小さく微笑んでいて。


あれれ?言っても、いいの?


もしかして…待ってくれてる、とか?


必死に両手で塞いでいた唇がゆっくりと剥がされて自由になる。



うそ…


さかえぐち…?



薄い茶色の瞳に自分が映っているのがわかるくらいの距離って…



前髪が触れる距離って…



小さく息が掛かる距離って…





『みずたに…俺「しょうがないなぁ」って言ったよ?』




想いが零れる3秒前。




*end*





「ミルクティがすき」のみかんさまから頂きました。
水栄独特の両片思いが好きです。
付き合ってからも好きですが、両片思いってやっぱりキュンキュンします(>v<)

この後告白するんですね、分かります!!(^人^//キャー

相互&素敵な文ありがとうございました!!

お持ち帰りは厳禁ですよ?









 
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