おお振り
□My moon bunny
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何も言えないでいる俺を見て、栄口は肩を落としてうなだれた。
紙袋から取り出したとき、片方が折れてしまったうさ耳も、なんだかしょんぼりしているみたいだ。
「……俺、バカだよね。こんなことして……」
「そんなこと……」
ない、って言う前に、栄口の握りしめた手の甲にぽたん、と落ちる涙の雫。
「こんなの、可愛い女の子じゃないと似合わないのに」
水谷には、可愛い女の子が似合うのに。
空気を震わせて届く、君のか細い声。
「さかえぐち……」
小さな顔を両手で包み込んで、上を向かせる。
うさぎみたいな赤い目をして、これ以上涙を溢すまいと耐えているのが、泣かれるよりもっと俺の心臓を締めつける。
「………見んな…っ」
顔をそむけようとしたけど、俺は両頬に添えた手の力を緩めなかった。
栄口の頬っぺたはすごく柔らかくて、手の平に吸い付くように滑らかで、初めて触れたときには感動して泣きそうになった。
横顔を見つめるだけの恋で終わらせなくて良かった。
「…っ」
視線に耐えられなくなった栄口がぎゅっと目を瞑ると、ぽろぽろと大粒の涙があふれて頬を伝い落ちていった。
チュっと音を立てて、涙を吸う。
「泣かないで、栄口」
よしよしって、いつもなら頭を撫でるところだけど、今日はうさ耳があるから、背中をぽんぽんとあやすように叩く。
「可愛いくって優しくって、俺は栄口が世界で一番好きだよ?」
「水谷は……俺なんかより……他の…女の子を……好きにならないといけないのにぃ………」
涙声でそんなこと言わないの。
素直じゃないね、栄口は。
「他の女の子なんか好きなんないよ。栄口以外の誰もこんなに好きになれない」
力いっぱい栄口の背中を抱き締める。
栄口の体は女の子みたいに柔らかくないけど、俺はその骨っぽさと、張りのあるしなやかな筋肉の感触を愛しく思う。
「俺は栄口が好きで、野球が好き。あのちっちゃい白い球を栄口と一緒に追いかけて、笑ったり泣いたりできる毎日を送れることを神様に感謝してる」
君がいるから頑張れるんだ。
うぅ〜って、俺の肩口に顔を埋めてきた。じんわり涙が染みて、肩が温かくなる。
「水谷、一昨日……告白されてた。ふわふわの長い髪の、可愛い女の子に…っ」
あー、あれを目撃して、いろいろ考えちゃったのか。
「えぇと、確かにコクられたけど、俺、断ったよ?ごめんね、黙ってて」
栄口に黙っていたのは、嫌な想いさせたくなかったからなんだけど。不安にさせちゃったんだ。
「俺…ずっと、水谷は…女の子と付き合ったほうがいいって思ってて……」
うん、「俺なんかより可愛い女の子とつきあえよ」って、言われたこと何回もあるね。
(そんなの本気にしたことなかったけど、言われたら哀しくなる言葉)
「でも……そんなの嫌だって……俺…っ。ホントは……ずっと水谷と一緒にいたい…って」
堪えきれずに嗚咽をあげる栄口。
普段、我慢していたものが一気に爆発しちゃったみたいだ。
「ずっと一緒にいるよ」って、震える肩を抱いてあげると、顔を上げた。
「ごめんね」って、なんで栄口が謝るの?
俺はすっごく嬉しくて、月までだって飛んでいけそうなのに。
ほら、もう泣かないの。
「うさ耳の栄口、可愛いよ?俺の思っていたとおり……ううん、その何倍もずっとずっと可愛い」
せっかくうさ耳つけてくれたんだから、笑った顔を見せてよ。
「うそ、可愛くなんかない。俺は男だよ」って、駄々っ子みたいに首を振る。
……あぁ、だからそんなところも可愛くって堪らないんだよ。
栄口はいろいろと誤解をしているみたいだけどさ。