おお振り
□二人旅行、夏の一時
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座席が回転するコースターは避け、1番有名なローラーコースターに乗った2人だったが、それを降りた直後、笑いが止まらなかったとか。
速度もそれなりにあったが、何よりも凄かったのは、そのコースターの全長と落差だった。
怪物マシンと言われているだけあり、スリルも半端なかった。
ホテルのベッドに倒れ込んだ水谷は、そのコースターのことを思い出してこう言った。
「あれを作った人は…変態だ」
別のコースターのことを述べた際に「頭が可笑しい」と言ったことと少々似ているなと思った栄口だったが、彼自身もそう思ったので肯定した。
「確かにな。戻ってきた時に拍手されたのも、何か納得できたし」
「何故か笑いが止まらなかったよな…」
「そうなんだよな。写真見たらもっと笑えてさ」
「…それは俺が可笑しかったから?」
「そうそう…って冗談だよ、水谷」
怒って頬をふくらませた水谷を宥めようと、栄口は水谷のいるベッドに腰掛けて、水谷の頬に触れようと手を伸ばした。
だけど、その手は水谷の頬に触れることはなかった。
先程まで見下ろしていた筈の水谷の顔が、今は栄口のことを見下ろせる場所にあった。
「え…?」
「油断してたでしょ、栄口」
「いや、別にそんなことは…っ」
「っ…ほら、今してた」
いつものほわほわとした見てる方が温かい気持ちになるような笑みではなく、怪しく少し色っぽい笑みを浮かべた水谷が人差し指で栄口の唇をなぞった。
その瞬間、ぞくっとして、栄口は身をよじって水谷の拘束から逃れようとするが、両手首が押さえつけられ跨られている為、動くことができない。
「水谷っ、」
「ん、何?」
「はなして」
「…嫌だ。だって昨日はこういうことできなかったし、俺は栄口にくっついてたいんだけど…駄目?」
眉を下げてそう言う水谷は、まるで困っている小型犬のようで、栄口の心臓がとくんとはねた。
どうしようか悩んだあげく、栄口は観念して許可したのだった。
すると水谷は跨るのをやめて、栄口の隣に寝っ転がった。
「こうして並んで寝っ転がるとさ、合宿を思い出さない?」
「合宿か…最後の合宿からもう1年経ったんだな」
「あ、そういえば。懐かしいな…」
「水谷は何とかして俺の隣で寝ようとしてたよな」
「そ、それは…」
「ははは、ちゃんと分かってるよ」
「…栄口さ、意地悪になったよ、絶対」
水谷は身体を反転させ、わざと栄口に背中を向けた。
その動きを見た栄口は、クスリと笑うと、水谷の背中に密着した。
「…何」
「いや、こうしたかっただけ」
「…あぁもう栄口ーっ!!!」
「のわっ?!」
「好き、すっげぇ好き!!」
栄口と向き合ったかと思えば、水谷は栄口を抱き枕よろしく、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
あまりの力強さに、栄口は力を緩めろと抵抗してみせたが、これがちっともビクともしなかったので、大人しく水谷の腕の中におさまっていた。
解放されたら怒ってやろうと思っていた栄口だったが、結局怒れずに流されてしまったのだった。
二人旅行、夏の一時
(また二人っきりで行こうな、と約束をした夏の夜)
end.