rainy rainy

□其ノ壱。
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 本日モ、陰雨ナリ。
 と云うか、淫雨なり。
 冬も深まり十二月も半ば。だと云うのに何なのだろう、此の梅雨のような長雨は。撃剣部の合宿と云うことで学院内の旧合宿場に泊まり込みで練習に来たのだが、どうにも天候が優れない……雨は、合宿が始まる以前からから三日目の今日まで絶えず降りしきっている。
「あめみー、もしかして雨男?」
 六畳ほどの部屋で、雨音に沈むことなく僕の耳に届いた澄んだ声――趣味で此の部活を立ち上げた無茶な行動力の塊、蘭堂詩音先輩は、窓の硝子越しに暗い空を仰ぎながら云った。ちなみに"あめみー"とは、雨宮楓という僕の名前の苗字を崩したあだ名である。
 ソファベッドに腰掛けた僕は、苦笑で応える。
「先輩が雨女、でしょう? と云うか、そう云う次元の降り方じゃない気がするんですけど……」
「確かに、此の時期にしては長いね……。洗濯日和が続くでしょうーって週間予報も云ってた気がするんだけど」
 其れはアレですか、雨曝しで荒く、自然的かつエコロジーの精神を以って、しかしながら水洗いの常識を覆す素敵過ぎる大胆な……そんな洗濯があるか、死ね。と云うか僕が死のう。
 雨音によるノイローゼだろうか、ひどく思考が乱れているのが痛いほどわかる。と云うか、痛い。色々と。
「まぁ、いいんだけどね、いくら続いても。野外で模擬戦が出来ないのは残念だけど、屋内では練習出来るわけだし」
 確かにそうですねと、僕は適当な返事をするに止まる。旧合宿場はだいぶ古い建物ではあるが、合宿程度の寝泊りには苦労しないし、危険なほど老廃しているわけでもない。剣道と云うよりはスポーツチャンバラに近い撃剣の活動場としては、決まった広さのスペースを必要としない競技の性質から見ても、昔は剣道場などとしても使われていたと云う此の施設の運動場は活動場としては十分過ぎる。雨風が凌げると云うのだから此れ以上に求めるものも無いだろう。
「暇だし、お昼ご飯の腹ごなしがてらに動きたいな。あめみー、相手してよ」
 先輩はすっと立ち上がり、壁に立て掛けてあった竹刀を手に取り云う。僕が頷いたのを確認した先輩は、すたすたと静かに部屋を出た。
 窓から覗く空は暗く、黒い。昼下がりである現在時刻を正確に把握出来なくても仕方ないなと思いつつ、僕も部屋を出、先輩の背を追いかけた。

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