rainy rainy

□其ノ漆。
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 先輩は部屋に着くなり、荷物を纏め始めた。僕は未だに心の整理が付かずぼーっと立ち尽くしていた。背中に問う。
「……此れ、ドッキリか何かなんですか?」
 振り返った視線には怒りが滲んでいて、何かを云おうと開いた口は、次の瞬間には閉じられていた。
 悲しげに揺れた瞳。急にしおらしくなってしまった先輩の口から「ごめんね」と、弱弱しく声が落ちた。
 其れが答えだった。問いの答えはノーであり全ては本気であると、そう云っていた。僕は何も返せずに、ただ其の髪を撫でた。
 先輩はその場に崩れ、声を殺して泣いた。初めて見る其の弱い姿には、普段の明るさなど何処にも感じられなかった。
「何も云わなくて、ごめんね。今更かもしれないけど……」
「いえ……道中ででもいいです、教えてもらえませんか?」
 僕は八畳の部屋を見回した。僕の荷物は木刀くらいしかなく、服は洗濯し室内に干されたまま。逃げるにしても一度家に帰る必要がありそうだった。
「あたしも、あめみーも、殺されるの」
 至る処の提示から、其の話は始まった。
「いつも、雨が降るでしょ? 偶然じゃなくて、必然だったの。よくわからないけど、そう云う体質みたいなの」
「雨女、ですか」
「雨男もね」先輩は悲しげに云った。「けど、そんなジンクスで刃を向けられようなんて、誰も思わない」
「えぇ」
 ふっと、先輩は力なく笑いを零した。

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