rainy rainy

□其ノ捌。
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「其の雨で、街が困ってる、国も困ってる。此の儘"降らせ続ければ"、被害はただじゃ済まなくなるって。其れを云いに来たのが、あの女だった。そもそもの話が宗教的で、莫迦げてて、しかも伝えに来たのがふらふらした雰囲気の女だった。
あたしじゃなくたって、誰も信じたりはしないよ」
 確かに……。見知ってから間もない僕が云うのも失礼かもしれないが、彼女は半分冗談みたいな存在だった。僕だって、信じなかっただろう。
「其れを理由に、最初は此の部活の廃止を求められた。当然、あたしは聞かない。次は、どちらかが此の街を離れるように云われた――従うわけなんてない。そしたら、もう手遅れだって、云われたの」
 ただの冗談好きの大人とばかり思ってたんだけどねと、先輩は再び笑いを零す。
「彼女は国の人間だったの。よくわからない、国の組織の人間だったの。全ては、上の命令で、其れを伝える役を彼女が任されてたんだって。まったくの人選ミスだよね」
 此れにも僕は頷いてしまう。
 先輩の声色は、より一層哀調を帯びた。
「もう、雨は止まない。どちらかが、或いはどちらも死んでしまわない限り、ね。国は、軍力を以ってしても殺さなくちゃいけない――国を、水に沈めるわけにはいかないから」
 先輩は荷物を纏め終えたらしく、重々しく立ち上がった。
 僕は、先刻の先輩の其れが伝染したように、力なく笑う。
「僕が、殺されてきましょうか? 其れで終わるかもしれないんでしょう、死んできましょうか……?」
「莫迦……っ」
 先輩は僕の胴着に身を投げるように倒れ掛かり、再び泣いた。僕はぎこちない動作で、其の肩を抱いた。
「あめみーまで、肯定しないで。受け入れたら、もっと深い処に落ちちゃう……怖いの。本当は、信じたくなんかない」
「……」
「ひとりだけで、いなくならないで」
 はいと応えた。けど、僕だって、怖い。
 あまりにも抽象的な死は、すぐ其処に在るようで遠く、触れられそうで触れられない。
しかし、儚い生は、まもなく失せると確実に予定されていた。
「行きましょうか、何処か、に」
 其の言葉はもう、自棄になって吐き出された。

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