rainy rainy
□其ノ拾貮。
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「終わったわね」
学院の正門の前で女が呟く。
確かに、雨はあがった。しかし、空は重く雲を湛えていて。仕事が終わったと云うのに気分まで晴れず、女は苦々しい思いで傘を畳んだ。
「やっぱり、殺したのか」
背にかかった懐かしい声に、女は振り返る。其処には、白衣の少女が立っていた。嬉々とした色を表情の下で押し殺し、女は応える。
「えぇ、だからこうして止んだんじゃない」
「表にはなんて説明するんだか」
「原因は不明なことを前提。少年は少女を殺し其の遺体を川に捨て、其の後自らにも創(きず)をつけ、其の儘川に身を沈める。現場にはナイフが残されている。心中とか、そんな感じで済むわよ、今回はそんなに跡の残らない仕事だったわ」
少女は呆れて溜め息を吐く。
「そんなものかな?」
「そんなものよ」
女は傘に付いた水滴を振り払う。そしてふらふらと手を振り「そろそろ帰るけど」と少女に告げた。
「御国の方も大変なことで」
「そうよぉ、どこぞの保健医よりかはずっと大変なの」少女に背を向け、女は歩き出す。
しかし、すぐにふと立ち止まった。
振り返り、少女に訊く。
「向日葵って、何処かに売ってないかしら?」
「は?」
「いや、あの子たちに手向けてこようかしら、なんて」
「今更な優しさだね。てゆうか、今の季節を考えたらどうかな?」
「やっぱり無いわよね……」
残念そうに俯く女。少女はまた溜め息を吐く。
「何で、向日葵がいい? 他に供えるものはあるだろうに」
「……じゃあ、晴れっぽいものなら、向日葵じゃなくてもいいわ」
「わからない」
「……役にたたないわね」
そう吐き捨てると、女は再び歩き出す。色んな意味で取り残されてしまった白衣の少女も、やがて其の場から離れるように歩き出した。