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□久遠を手に入れた従者のお話。
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貴女が私をお飽きになられたら
そつとお捨てになつて下さい
其の御手の届かない何処かで
靜かに私を殺めませう

"汝の劔は誰が為に?"

其の問ひに答へられなかつたことを
度々咒い、悔やむだものでしたが
今は安堵しております

"我が劔は卿の為に"

用意していた其の答へは、何れ嘘となります
さう、叙位式で戴いた劔の刃は
私の胸に沈むでいるのですから

貴女の中で永遠にならうとは思ひません
所詮叶わぬ夢
何時でしたか亡き王女を笑つて語られたやうに
私も過去のものになり
何れ消えて無くなるのでせう
過ぐ時の前では、私はただの古人形
新しき人形の美しさには劣ります
貴女の興味が其れらに傾き
わたしに注がれるものが無くなれば
屹度、涸れてしまうのです

何時か訪れる其の時が、怖くて仕方ありません

だから、まだ湛えるものがある今
其の潤いだけを永遠にしたくて
胸に劔の柄を飾って、此れ以上先を知ることはなくなつたのですから

温くて紅い水と
貴女から戴いた其の意を留めて


私の胸は、かわくことはなくなりました

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