novel(2)

□ていでん。 (or non title
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「飽きた。飽きたわ」
 人形が喚く。
 従者は無表情に、口を開こうともしない。
 構わず、人形が音を漏らし続ける。
「呼吸するのも億劫だわ。どうしようかしら、此のやり場のない怠さ」
「億劫でしたら止めたら好いかと思います。ちなみに、やり場がないのでしたらどうなさっても遣る場はないのかと思われますが、如何でしょう」
 ようやく聞いた従者の声に一瞬気をよくした人形だったが、其の内容に途端に冷めたようだった。
「直訳は"死ね"に聞こえるのだけど」
「そう申しております」
 人形の口から続いて零れたのは、浅い溜め息。
「主に対しての礼儀と忠誠心は、何処に置き去りにされちゃったのかしら」
「一片の忠誠心も無いのでしたら、わざわざ私が此処に、貴女の傍に居ることもないとはお思いになりませんか」
 きっとまっすぐに見据えられ、人形は軽口に詰まってしまう。主と従者の関係で有る以上に、何か違うものが其の声の中に感じられた気がして、彼女の胸は思わず愛しさに溢れた。
 一刹那の後には崩れたが。
「ただ、変態に向けるための礼儀は初めから持ち合わせておりません。誰かが置き去りにした其れが地上に存在しているとしても拾う気は有りませんし、加えて、享受する気にもなれません。不思議なことで御座います、カミヒトエなお嬢様にこうして忠誠を以てしてお仕えしているなんて」
 人形は苦笑のみで応え、其れきり何も云わなかった。
 従者も、倣ってそうした。
 愉しいと、人形は思う。
 幸せを、人形は感じる。
 主に仕える者は、ただただ従順でしかないと、そういうものだと思っていた。今まで見てきた其れらがそう在ったように、誰であっても同じであろうと思っていた。
 ――改めてそんなことを考えさせられたのも、此処にいる少女に出会ってからだったか。
 人形の思わず零した微笑に、従者は少し怪訝な表情をしただけだった。
 其れで十分だ。
 彼女が自分の為すことを気に掛け、小さくでも其の表情を変えて呉れるのなら。
 幼いなと、人形は内心自嘲する。
 しかし、人形は孤独であった。幼いようでも、小さいようなことでも、愉しいと思えることこそが新しく、其れゆえに大切なことに思えた。
 虚ろになった瞳に光を与え、見失っていた自らに気づかせて呉れた従者を、人形は愛する。
 其れは本当に、不器用な愛の在り方だった。
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