ひだまりのゆりかご2

□四十.優しさ
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佐助と喧嘩してしまった翌日。
慶次は清香に招かれて彼女の部屋に居た。

「ごめんなさい慶次さん。急に『相談したい事がある』なんて言ってしまって…」

「謝る必要なんてないよ。俺だって、清香の力になりたいんだからさ」

慶次がニカッと笑うと、清香もつられて微笑む。
誰もを笑顔にさせてしまう。
そんな才能が慶次にはあった。

「それで、どうしたんだい?誰かと喧嘩でもしたのかい?」

「………」

いきなり核心を突かれ、清香は黙り込む。
そんな彼女に、慶次は柔らかく笑った。

「大丈夫だからさ、言ってごらんよ」

「…………」

その優しい声に、清香は恐る恐る口を開く。

「……私、みんなに隠してる事があるんです」

「…………うん」

「いや、大した事じゃないのかもしれませんけど…でも、私にとっては深刻な事で。みんなに知られたくなくて…」

「……うん」

「………悪いのは私だって分かってるんです。皆さんは素直に私に話してくれたのに、私だけが秘密を持っているなんて…ずるいですよね。でも私、どうしていいか分からなくて……」

「………」

「せっかく、佐助さんが手を差し伸べてくれたのに…………振り払っちゃった…」

ぎゅ、と拳を握り締める。

あの時の佐助は、真剣そのものだった。
でも、それは秘密を持 清香を責めるものでもなければ、探るものでもなかった。
純粋に、清香を知りたがっていただけ、案じていただけのもの。
それを拒絶した時の佐助の表情が、今でも焼き付いていた。
ショックを受けた、悲しい、縋るような瞳。
思い出す度、胸が締め付けられるのに、彼の想いに答えようとはどうしても思えない。
そんな自分がひどく冷酷に見えた。
だけどもしかしたら、それが本当の自分なのかもしれない。
狡猾で、冷酷で、それでいて滑稽で哀れな人形(ヒトカタ)。





お願い。誰も私に触れないで。
この心は、全部『私』だけのもの。
私は、清香だから―――





「それは清香が悪いよ」

突然の言葉に、清香はびくりと身を震わせた。
俯いていた顔を上げると、そこには今まで見たこともない怒った顔をした慶次の姿があった。

「俺達には、清香しか頼れる人がいないんだ。だから、清香を大切にしたいと思うし、信じたいと思う。………そんな人から拒絶された時、どんなに傷付くか、清香は考えた事があるかい?」

責め立てるような口調に、清香は怖じ気づく。
信じられなかった。
まさか、慶次が怒るなんて。
慶次なら、慰めるとはいかなくとも、優しく諭してくれると思っていたから。
けれどそれは自分の甘えだったと気付く。
そして、あの温厚な慶次を怒らせてしまう程の事を、佐助にしてしまったんだと思うと、恐ろしくなった。

「あ…ごめんなさ…」

すっかり怯んでしまった清香は、反射的に謝ろうとする。
泣きたくはなかった。
泣いたら、慶次を困らせてしまう。
ぐっと唇を噛み締め、俯く。






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