◆ファンタジー

□野外実習2日目B
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剣を首元に当てられ血も滲んできたが、碓氷は…


「降参………………

しないよ。」


「なっ…!」

碓氷は首が切れるのも構わず、自分の顔を美咲に近付けてきた。
碓氷の顔が、今からキスをするかのような距離まで近付いてきた。
反射的に美咲は顔を遠ざけようと仰け反る。
碓氷は美咲の手が緩んだ隙に、剣を掴んでいた手を外し、そのまま両手を掴んで組み伏した。

「形勢逆転…だね。」

「あっ。くそ…っ!!」

「じゃあ、昨日の約束覚えてる?どうしようかなぁ〜『命令』」

「まだ負けたと決まったわけじゃないだろ!はーなーせぇーーー!!!!」

美咲はジタバタするが、碓氷からはどやったって逃げれそうにない。
それでも一瞬でも隙が作れればと、力は緩めなかった。
そんな美咲だったが、ハッと気付く。

「う、碓氷お前っ!首っ!血っ!!止血しないとっ!」

「ん?大丈夫だよー。舐めときゃ治るって…、ミサちゃん舐めて〜。」

「アホかー!!ふざけてる場合じゃないだろ!早く治療しないと。」

「ヤ〜ダ〜。こんな美味しい状況、ミスミス逃す手は無いでしょ?」

「何が美味しい状況だ!あぁっ、ほら血が滴ってきたっての!」

「ん〜…、じゃあ、先に『命令』聞いて貰おっかな。」

「だからまだ負けとはっ…、って、あぁ血がー!!」

「しょうがないなぁ…。今日は『アイコ』ね。んじゃご褒美ってことで…。」

「何が『アイコ』だ!勝負に『アイコ』なんてない!『勝つ』か『負ける』かだっ!って、何するっ…」

徐々に近付いてくる碓氷。
首の血が…とか、悔しいけど整った顔だな…とか、どこか頭の片隅で思いながら、でも近付いてくる顔をまともに見られなくなって、ギュッと目を瞑る。



『チュッ』




「…………は、鼻?」

「ん?唇が良かった?」

「…あ、アホかーーーー!!!早く退けっ!首の治療するぞ!!」

「ハイハイ。大したこと無いのに…。」

美咲を組み敷いていた力を弱め、上体を起こす。
美咲も慌てて起き上がり、碓氷の首元を止血する為に持っていたタオルを首元に当てた。

「お前は自分の傷口が見えないからそう言ってるんだよ!」

「大丈夫、良い薬見付けたから。鮎沢の力が必要だけど。」

「は?」

「ちょっとコレ噛んで。」

碓氷はその辺に生えている野草をブチっと引き抜き、美咲に渡した。

「…何だこれ?噛めば良いのか?」

「うん。噛むだけね。飲み込まないでね。」

「…?あぁ、分かった。」

美咲は碓氷から野草を受け取り、口に入れて噛みだした。
野草独特の苦味が口に広がり顔を顰める。
しかし、言うとおりに噛み続けた。

「…うん、それくらいで良いかな。じゃあそのままそれを…、おれの首元の傷に塗って。あ、ちゃんと舌でね。」

「ぶっ…ぐ、ぐぐ……!!」

「危ないなぁ…、吹き出したら台無しだよ。最初からになっちゃう。しかもその薬草、それ一枚っきりしかないからね。貴重だよ?」

「ふざげ…るなよ…」

「ふざけてないよ〜。ほらほら〜。」

碓氷が血だらけになっている首元を指差す。
タオルで押し当てていたお陰で、血の流れは弱まっている。

もうこうなったら言われるがままにするしかない。
覚悟を決め、碓氷の肩に両手を乗せ首元の傷に顔を近付けた。


ぬる…っ

「…っ」

…血の味がした。

舌に薬草を歯で磨り潰したものを少しずつ傷に塗っていく。
碓氷の血を舌で感じる。
薬草は傷に沁みるようで、碓氷は眉間に皺を寄せていた。


口の中の薬草を全部傷口に塗り終わり、碓氷から離れた。

「ありがと、会長。」

「…はぁ。本当にこれで治るんだな!?」

「うん。その薬草は唾液と混ざると即効性の傷薬になるんだ。けど、一瞬でも外気に触れちゃうと効果が無くなっちゃうから直接塗って貰ったわけ。」

「…そんな薬草、初めて聞いたぞ…。」

「動物達の薬なんだよ。貴重な物だから、一枚だけ頂いたんだ。…ほらもう治った。」

碓氷が傷口を見せる。
…傷口は塞がり、血は完全に止まっていた。







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