★過去拍手お礼文

□2010.10.05〜2010.12.05
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美咲が一人、巨大なモンスターと対峙している。
美咲の腕の中には野生の子狐。
自然の摂理は知っている。弱肉強食の世界だ。
頭では分かっていたが、子狐がモンスターに今にも襲われそうになっている所を見てしまって…
考えるよりも先に体が動いていた。

『火よ!目の前の敵を焼き尽くせ!』

強力な火の魔法が掌から発動され、モンスターに直撃した。
しかし、モンスターは平気な顔をしている。
火の魔法を掻き消したのだ。

「くそっ。こいつ火の魔法が効かないのか…」

火の魔法を操る美咲には他の魔法は扱えない。
美咲は剣の攻撃に切り替えた。
しかし子狐を護りながらだと片手しか使えないので、美咲の本来の実力が出せず苦戦している。
せめて魔法が効けば…。
子狐を安全な場所に逃がす暇もなく、片腕に抱いたまま戦い続けていた。

「まずいなこのままじゃ…。私もこの子もやられてしまう…。」


美咲は課題で出ていた薬草採取に、一人で学園のすぐ横にある森へ来ていた。
さくら達から「一緒に採取に行こう」と誘われていたのだが、生徒会の仕事が長引きそうだったので先に行ってもらった。
仕事が片付いた頃には日が落ちかけ、薬草がある場所は森の中なのでもう薄暗くなっている。
一人ではさすがに無用心か…とは思ったが今更他の人に同行を頼むのも憚れ、一人で行くことにした。
学園のすぐ近くだし、それに大抵のモンスターなら一人で撃退できる自信がある。
そう思っていたのだが………


容赦なく突進してくる巨大なモンスター。
それをギリギリの所で横に跳んで避け、またモンスターと対峙する。
そんな事を繰り返している内に、こちらのスタミナが切れてきた。
何度目かのバケモノの突進で避けるタイミングが少しずれ、美咲は足首を捻ってしまった。

「くぅっ…」

これでは素早く動けない。
…美咲は覚悟を決めた。
子狐を首元から服の中に無理矢理入れ、両手で剣を構える。
モンスターと刺し違える覚悟をした。

「こんな巨大なモンスターを学園に逃がすわけにはいかないからな…」

生徒達を統括する会長として、皆を護らないといけない。
疲労と緊張で汗が流れる。
それを片手で拭いながら、剣に気を込めた。

モンスターも止めを刺さんとこちらへ突進してくる。
力負けしそうな勢いだが、引かない。

「私は星華魔法学園の生徒会長、鮎沢美咲!
 お前になんかに………負けるものかっっっ!!!」

美咲とバケモノが交わる瞬間…………


『水よ!その者を護れ!!』


水が美咲とモンスターの間に巨大な滝のような壁を造った。
モンスターは押し返され、美咲は水に包まれて護られている。

「水の防御壁…」
「会長大丈夫〜?」

戦闘中には不釣合いな軽い口調で話しかけてきたのは、碓氷だった。
碓氷は双剣を手にし、美咲へと近付いてくる。

「会長…足首怪我してるみたいだね。」
「あ、あぁ…少し…捻ってな。動けない程度ではない。」
「…そ。でもまぁ、ココは御主人様に任せなさい。」
「碓氷っ!?」

ガキィィン!!

双剣を巧みに操る碓氷。
このモンスターは水の魔法は効くらしい。
碓氷は魔法と双剣を巧みに操り、数分もしないうちに巨大なバケモノは地に伏した。

「はい、おしまい。」
「碓氷…お前どうしてココに?」
「会長と一緒に薬草採取に行こうと思って待ってたのに、先に行っちゃってるんだもん。」
「そ、そんな約束してないだろ!?」
「暗くなるって分かってたのに、女の子一人で行くつもりだったの?…って、もう行ってたもんね。」

ハァ…とため息をつきながらかぶりをふる。

「しかしだな…。」
「でも、鮎沢が無事だったから良かった…。薬草摘んで帰ろう?」
「ああ、そうだな。」

その時、モゾモゾと美咲の胸元が動いた。

「あ、そうだ。こんな所に押し込んだままですまなかったな。」

美咲は胸元に入れていた子狐を出し、そのまま森の奥へと促した。

「お母さんの元へお帰り。」

美咲は優しげな目で子狐を見る。
子狐は美咲の方を何度か振り返りながら、森の奥へと帰っていった。

「鮎沢。」
「なんだ?」
「薬草を摘む前に…足の治療をしてあげるね。」

にっこりと微笑みながらこちらに近付いてくる。

「いや、結構だ!大丈夫、歩けるから!」
「こんなに腫れてるくせに強がっちゃって…。ほら…。」

碓氷がその場にしゃがみこみ、捻った方の足首に軽く触れた。

「いーーーーっっっ………たくない…。」
「強がっちゃって…。ほら座った座った。それともお姫様抱っこして欲しい?」
「やめろっ!!……ふん。治療するならさっさとしろ。」
「ぷっ…。畏まりました、お嬢様。『イタイのイタイの飛んでいけ〜』」

ガクッ。力が抜ける…。

「あ、相変わらずお前の魔法は非常識だな…。」
「そう?でも効くよ?」
「…それがまた悔しい。」

碓氷の治癒魔法のお陰で足は完治した。
その後二人で薬草を摘み取り、岐路に着く。

すでに太陽は沈み、暗い森の中。
太陽の変わりに月が昇り、二人を薄く照らす。
二人は自然と手を繋ぎ、寄り添い歩く。

狐の親子がそれを見送った。





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