◆ファンタジー

□野外実習1日目@
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≪第一章≫





ミーンミンミンミンミンミーン……

ミーンミンミンミンミンミーン……




夏の虫達が騒いでいる。

美咲は額から溢れ出る汗を拭いながら呟いた。

「暑い……。」

後ろを振り返ると、息も絶え絶えに歩く仲間達が美咲に追いつこうと必死に足を進めている……のだが、速度は遅い。

美咲達一行は森の中を歩いている。
森の中の道は険しく、木々の根や草が行く手を邪魔する。
さらに一人一人が普段背負わない量の荷物を背負っていて、いつ襲ってくるか分からない敵にも注意を払って足を進めていた。


横を見ると涼しげに歩く碓氷がいる。

「お前は汗ひとつかかないのか…。さすが変態宇宙人だな…。」

「ん?俺はね〜、水の精霊達に冷気を送り続けてくれるように頼んでるんだよ。俺暑いの嫌いだから。」

その台詞を聞いて美咲達は驚いた。

「じゃあ、ずっと魔法を使い続けているってことか!?そっちの方が大変だろうが!」

「大した事ないよ。使う魔力はほんの少しだもん。」

実際には大した事を、全然大した事じゃないように言う碓氷。
本当にコイツはムカツク奴だな…。



「美咲ぃ〜。少し休憩しようよう〜。」

さくらが疲れた声でそう言ってきた。
皆も口には出さないが同じ気持ちなようだ。

「そうだな…。ここで休憩にするか。」

ヤッター!ヒャッホーイ!と今までの元気の無さは何処へ行った?という感じで叫ぶ3バカ達。
さくらもしず子も幸村も疲れたのだろう。荷物を降ろしてすぐに座り込んだ。

「じゃあ私は飲み水を確保してくるからな。碓氷、お前はまだ平気だろ?付き合え。」

ハイハイ。と返事をしながら付いてくる碓氷。
水を入れる為の布製の皮袋を持って、二人は近くの小川へと降りていった。





川の清流に口を開げた水袋を入れて、川の水を流し込む。
水袋に掛けられた魔法が川の水を浄化して、安全な飲み水にしてくれる。
大量の飲み水をいくつも持ち歩くと重いので、小まめに補充していく方法を取った。

浄化し終わった水を、美咲は先に一口飲む。

美味い…。

汗をかいたこともあるが、水自体が美味しい。
森にいる様々な精霊達が水を綺麗にしているのだろう。

碓氷も川に手を浸し、嬉しそうに水を掬う。
こいつはこいつなりに何か感じる事があるんだろうな…。

碓氷は美咲の手にある水袋を受け取り、水を一口飲んだ。

「うん、美味しい。
 あ。鮎沢と間接キスしちゃった♪」

「アホかっ!」

真っ赤になって照れる美咲を満足そうに見ながら、碓氷はもう一口飲んで少なくなった水をまた足し始めた。






水を補充して仲間の元へ帰る最中、美咲がぼやき始めた。

「しかし…まさかお前と班を組む事になるとはな。」

「俺と組むのがそんなに嫌だったの?」

「いや…まぁ、そういう事も無いが…。お前が一緒だと心強いし…。課題も一番難しいのに挑めたし…。って、そうじゃなくて!」

一人で自分の台詞に突っ込みを入れ、手をパタパタさせている。

「私は、最初生徒会メンバーで野外実習に挑もうと思っていたんだ!」

「うん、知ってるよ。」

「え?お前に言ったっけ?」

「うん。会長の独り言だったみたいだけど、声に出して言ってたよ。」

だから阻止出来たんだけど…。
ボソっと碓氷が呟いたのを美咲は聞いてなかった。
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