間の楔

□アンドロイド
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スタンバイ、スタンバイ。
コードEー301。
コレヨリ実験ヲ開始スル。
無機質な音声が告げる合図に従い、ラウール・アムはスイッチを押した。
点滅するランプは無情な破壊音に呼応する。
ダナ・バーン崩壊の縮小され、再現された建物内に響く悲痛な叫び。

「イアソン?」

背後の扉が開く音にラウールはモニターから目をそらし、振り返った。
そこには自身と同じくブロンドの髪をしたブロンディが立っていた。
ラウールは思わず強張りそうになる表情に内心舌を打ち、佇む男を見やった。

「実験を眺めに来ただけだ。ラウール」

「『リキ』、のか」

モニターに映る黒髪の男。
気の強さを引き立たせる強い眼差し、反抗しか頭にないと言わしめた元ペットの彼。
プログラムされていない生身の生体が放つ存在そのものが、かつて、一人のブロンディをただのセクサロイドへと貶めていた。
しかし、今は。

「ほう、アレは『リキ』と名付けられているのか」

ラウールは一瞬だけ、切なげに目を細め、吐きたくなるため息を堪えた。

「……あぁ」

スタンバイ、スタンバイ。

「イアソン。ここからはトップ・シークレットだ」

「そうか。なら、私はこれで失礼しよう。邪魔したな」

「……『イアソン・ミンク』『リキ』、死亡確認。これより回収する」

人工的に作り込まれた愛も死すらも操り、創造主は無慈悲に起動し続ける。
過去も今も未来さえも。
すべてはユピテルの名の元に、合法となるのだから。

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