創作
□御伽噺異伝 肆
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何を言ったのか分からずにいる二人を放り、桃太郎は体を回転させ、止める間もなく斜面を駆け上り始めた。
「桃っ」
「お前達は先に行け」
慌てる浦島太郎に、桃太郎は喜々とした調子で返し、大川へと駆けて行く。
そして彼の次の行動に、小僧は悲鳴を上げた。
「のっ飲んどる、飲んどる、なぜじゃ」
なんと桃太郎は山姥同様、川の水を吸い上げ始めたのだ。
これでは足止めにならんと喚く小僧に対し、浦島太郎は疲れたように溜め息をついた。
「…大丈夫だよ、きっと」
短い付き合いで知った彼の性格を思い、楽観的な判断を下す。
好奇心を刺激され、勝負魂に火が点いたのだろう。悪気は一寸たりとて無いのだ。
例え山姥に襲われても、彼は海鬼族最強の男だ。そう簡単に負けはしまい。
半狂乱になる小僧の手をひいて、浦島太郎は山を下り続けた。
浦島太郎の処断は正しく、桃太郎は無邪気に胸を張った。
「飲んだ量は同じくらいか。お前もなかなかやるな」
突然現れて川の水を一緒に飲み出した桃太郎を山姥は訝しげに眺めるが、相手にしない事に決めた。
再び駆け出した山姥に、桃太郎は意表をつかれたように声を上げた。
「あ、こら待て」
勝負を投げられた事に気付き、急いでその背を追う。