創作

□あおぞら六重奏〜下校前、猫の親子〜
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 最初に尋ねたきり、ずっと沈黙を保っていた京太郎の唐突な発言に、朋絵は目を円くする。

「朋絵の鞄は教室か?」
「あ、うん」

 京太郎の反応は予想外だったらしく、朋絵は円い目のまま頷いた。

 そして後に続いた京太郎の言動は、朋絵はおろか、勝太や祥生、恵子にとっても意外なものであった。

「じゃあ静弥と一緒に回収してくる」
「え、京太郎ちゃ…」
「じゃあ、行ってくる」

 それだけ告げると、京太郎は友人達に背を向けて、朋絵が来た道へ足を進めた。
 有無を言わせぬ端的な言葉に、朋絵は遠慮する隙も掴めず、呆けたように彼の後ろ姿を見送る。

 呆気にとられる幼馴染四人を残し、京太郎は廊下の角を曲がってその姿を消した。

「………」

 誰も言葉を見つけられず、無言の間が続く。

 その間もちらほらと帰宅する生徒が下駄箱に立ち寄り、玄関から校舎外へと去って行った。

 廊下を歩く上履きの足音、下駄箱下辺脇に敷かれたすのこを歩く靴下越しの足音、緑色の泥落としマットを歩く革靴の足音。

 一連の音を繰返し五回は聞いたところで、漸く勝太が沈黙を破った。

「京太郎は…健時お兄様に取り憑かれたか…?」

 勝太の呟きにより他三人の硬直も解け、四人はお互いに顔を見合わせる。

「…あんたもそう思ったの?」
「あ、恵子もか?」
「私も…」
「朋絵も?祥生は?」
「…まあね…」
「だよな〜やっぱ思ったよな〜」

 京太郎の突飛な行動に対して、どうやら全員が同じ感想を抱いていたようだ。

 ちなみに健時とは、筋骨隆々で逞しい体躯をした静弥の兄だ。
 彼はたった一人の妹を溺愛しており、近寄る虫はことごとく叩き落としてきた猛者である。

 「だよな、だよな」と勝太は頷き、両脇にいた祥生と朋絵の肩へ腕を伸ばして軽く叩いた。
 向かいでは恵子が手を口元に当て、廊下の先―京太郎が去った方向―を見つめている。

「…やっぱりアレって、そういう事なの?」
「じゃねえの?男子が一緒って聞いた途端にだかんな〜」
「不必要に男子を朋絵に接近させないようにするとかじゃ…」
「ん〜それよか、静弥と男子の二人きりを阻止したいってのが大きそうじゃね?」
「やっぱりそっち…?」

 恵子は違うと思いつつ別の仮説を提示するも、やはり賛同は得られなかった。

「何ていうのかな、その…」

 朋絵が言葉を選んでいると、正面に立つ祥生がズバリと言い放った。
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