創作
□あおぞら六重奏〜下校前、猫の親子〜
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「京太郎は静弥に対して過保護過ぎる」
笑顔が標準装備の祥生だが、今は不快感を顕に顔を歪めている。
「前から…っていうか、出会った時からそうだったけど…最近は特に拍車がかかっているし…」
気に入らないとばかりに眉を寄せる祥生に、恵子はかける言葉が見つからない。
恵子が京太郎や静弥と親しくなったのは小学校二年生からだが、確かに当時から京太郎は静弥に対して甘かった。
静弥に関する諸々のフォロー役は大抵京太郎が担っており、過去には勝太が吹いた牛乳から、その身を呈して静弥を守ったという珍事もある。
健時の影響だか知らないが、同い年にも関わらず、京太郎は静弥を自身の庇護下へ置いていた。
京太郎本人にもその自覚があったようで、中学入学以降は過保護な言動を控えようと努力する姿勢を見せていた。
見せていた、はずだが…
「何でまた戻っているのさ!」
憤懣やる方ないといった祥生の叫びに、他三人も頷いて同意を示す。
中学三年生、それこそ卒業間際まで京太郎は静弥を甘やかす事を自粛していたはずだ。
だが、高校生になる直前に京太郎はそれを止めた。
「高校をこっちに変えたのが何よりの証拠よねえ…」
「『やっぱり静弥と一緒の高校に通いたいから』っつー理由だけで、第一志望の合格蹴るなんてな〜」
第一志望であった私立の某進学校から合格通知を受け取ったにも関わらず、現在通う県立高校への入学を決めた理由。
それを本人から説明された時の事を振り返り、恵子と勝太は呆れたように息を吐き出し、祥生は忌々しげに舌打ちをする。
そんな三人に対し、朋絵は穏やかな口調で話しかけた。
「ふふ…でも、京太郎ちゃんらしいな…って思わない?」
慈愛の笑みを浮かべる朋絵は、おっとりと言葉を紡いだ。
「私ね…特に去年とか、京太郎ちゃんが無理しているように感じちゃって…本当は静弥ちゃんといたいのに、周りの目を気にして、距離を置こうとしていたから…」
過去の情景をそこに描くかのように、朋絵は掲示物の貼られた壁を見つめる。
下校する生徒の足音や会話が時折聞こえる廊下で、朋絵は静かに語り出した。
廊下に木霊するような大きな声ではないけれど、凛とした響きを擁した彼女の声は、聞く者の耳から心へ浸透していく。
「二人は男女だから、その距離で友情はありえないって言われて…それを気にしちゃって…
ふふ。そんなこと、二人をよく知らない人しか口にしないのにね」
朗らかに笑う朋絵を、恵子達が強いと思うのはこういう時だ。
普段は周囲の感情を慮り、人を立てようと立ち振る舞う朋絵だが、時として彼女自身の譲れない心を主張する事もある。
『柔和でお淑やかなお嬢様』といった印象を持たれ易い彼女だが、一本芯が通った――頑固とも言える気質も有する。
朋絵に好意を寄せる男子達の多くを恵子が卑下する理由は、そういった彼女の本質に気付かないからというのが大きい。
慈愛の聖母であり、戦を司る女神でもある朋絵はにっこり笑って、こう付け足した。
「だからね…お節介な人を見つけたら、私がきっちり取り除こうと思うの。折角京太郎ちゃんがまた静弥ちゃんの側にいようとしているのに、水を差して欲しくないからね」
「朋絵かっけー!」