創作

□あおぞら六重奏〜下校前、猫の親子〜
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 両手と一緒に快哉の声を上げる勝太だが、隣では祥生が頬をひくつかせて低く呻いた。

「…お節介な人って…まさか僕も入ってる?」

 珍しい祥生の動揺へ、朋絵はまさかと言って頭を左右に振った。

「祥生ちゃんは京太郎ちゃんが大好きで、静弥ちゃんには真っ向から勝負を挑んでいるでしょう?全然違うわ」

 どうやら朋絵の『お節介な人』の基準から自分は外れていたと分かり、祥生は胸を撫で下ろした。
 心身共に強靱な朋絵を、好き好んで敵に回したいとは思わない。対立しなくて何よりと、祥生は安堵の溜め息をついた。

「けどさー朋絵。前と今とはちょっと違くね?」
「?」

 祥生を笑顔で眺めていた朋絵の横で、勝太は徐に口を開いた。
 言われた言葉にピンと来ない朋絵は首を傾げて勝太を見つめる。
 恵子も祥生も勝太の言いたい事が分からず、同じく首を傾げて勝太を見やる。

 三人の視線を集めた勝太は下駄箱に背を預け、天井を仰ぎながら言葉を吐き出した。
 その声には幾分か楽しげな響きが含まれている。

「なんつーかさ〜前は静弥が京太郎を追いかけてたけど、今は京太郎が静弥を追ってる感じがしねえ?」
「…ああ、そうね…確かに」
「だろだろ?やっぱ思うよな!」
「本当、何があったんだかって感じ?」

 苦笑して同意する恵子に向かい、勝太は下駄箱から背を離すと歯を見せて笑った。

「さあな。でもま、静弥はちょっと余裕持ったのか分かんねえけど、京太郎にあまりくっつかなくなったしよ〜きっと京太郎、それが寂しいんだぜ!」

 これが正解だと言わんばかりに腰に拳を当ててふん反り返ると、その言動が気に入らなかった祥生により、脇へ手刀が放たれた。

 勢いよく入った手刀の威力に悶絶する勝太を視界から外し、恵子は窓の外へ目を向ける。

 六時間目が終了した頃と比べ、太陽はその高度を僅かに落としていた。
 白い雲に横切られた空は、頂点から裾野へかけて、薄い水色から濃い青色へ段階的に変化している。
 未だ天頂は明るい色を保っているが、数時間もすれば藍に近い青へと染まるだろう。

 そして日暮れの僅かな時間だけ、空には一時的に淡い赤色が広がる。
 その後色は濃度を増して紅から紫、藍、濃紺、そして墨色へと落着く。

 幼い頃から数え切れない程眺めた空の変化を、今日もまた幼馴染と一緒に眺められるという現実は恵子に喜びを与えた。

 変わるものもあれば、変わらないものもある。

 我ながら青臭い考えかしらと、恵子はひっそり微笑んだ。



「あ、日直の仕事終わったみたい」

 嬉しそうな朋絵の言葉に恵子達も廊下の先へ顔を向ける。

 そして目に入った光景に、勝太は頬を緩め、祥生はムッとし、恵子は苦く笑った。

「京太郎のやつ…静弥に彼氏作らせる気、無いわね」


 四人の視線の先には、手を繋いで並んで歩く京太郎と静弥の姿があった。


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