創作
□御伽噺異伝 肆之後
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山姥を食べた和尚はゆったりと首肯した。
「なるほど。それはまた、不思議な体験をされていらっしゃる」
桃から生まれて鬼に育てられた桃太郎と、竜宮城を訪れた為に時を越えた浦島太郎。
二人の奇妙な体験談を浦島太郎から聞き、和尚は穏やかな笑みを浮かべた。
「私も長く生きておりますが、お二人のような体験を見聞きした事はありません。
いや、私もまだまだ修行が必要ですな」
疑うことなくサラリと受止められ、浦島太郎はほうと息をついた。
小僧を助けた(?)お礼をかねて、今晩は寺に泊まるよう勧められたため、二人は言葉に甘えることにした。
ささやかな夕餉を終え、浦島太郎と和尚は囲炉裏を囲んだまま談笑する。
少し離れた所では桃太郎が小僧に向き合い、懇々と説教を行っていた。
曰く、不用意に山に火を放つな、火の恐ろしさを軽視するなとのこと。
尤もな話に、小僧が身を縮めてうなだれる。
逃げる最中はそこまで頭が回らなかったという理由は、先程桃太郎に一蹴されていた。
「咄嗟の時の判断こそが大切だ。いい機会だ、火の怖さを骨身に染みさせてやる」
「ななな」
どれ、と掛け声一つと共に、桃太郎は小僧の身体を肩に担ぎあげた。
「なっ何をする気じゃ」
いきなりのことに小僧は慌てて暴れるも、その頑強な拘束は解かれない。
そしてそのまま囲炉裏へ近付き、小僧の身体を高々と掲げた。
「待って、桃、もしかして」
「ああ。火にくべる」
「ひいいい」
「駄目だよ桃っ」
既に桃太郎への恐怖が骨身に染みている小僧は悲鳴を上げ、顔を蒼く染めた浦島太郎は必死になって止めにかかる。
「なぜ止める?分かり易いだろう」
「極端だし、危な過ぎるから駄目だよ」
「俺はこうして教わったぞ」
言葉にならない悲鳴を上げる小僧の下で、剣呑な言葉が飛び出る。
思わず息を詰めた浦島太郎に対し、和尚は鷹揚に頷き笑った。
「いやはや。鬼の子育ては豪快なことで」
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