創作
□御伽噺異伝
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桃太郎は鬼達に可愛がられ、すくすくと成長していった。
すらりと整った美丈夫だが、その腕っ節は島中の鬼をも凌ぐ。
そんな海鬼族最強の男となった桃太郎はある日、こう言った。
「俺はどこから来たのだろう」
するとある鬼はこう返した。
「崑崙山かも知れないな。あそこは桃が美味いらしい」
伝説上の山を桃という共通点で結び付ける。それは半分冗談だが、半分は本気だった。
なんせこの桃太郎は、見たことも無いほど大きな桃から生まれたのだ。
誰も見たことが無いという島から来たといっても、どこか納得してしまう。
それは桃太郎も同じだったようだ。
「俺は崑崙山に行って来る」
そのまま飛び出しそうになる桃太郎を、鬼達は一生懸命宥め抑えた。
鬼が島の鬼達にとって、桃太郎は全員の子供だ。可愛い我が子を手放したくないのは人も鬼も一緒だった。
しかし桃太郎は明るく笑い、逆に周囲を説得する。
「大丈夫。ちょっとどんな所か見に行って来るだけだから。ちゃんと帰って来るよ。桃をお土産にしてさ」
桃太郎の中で、崑崙山は只の桃の名産地でしかないようだった。
不老不死の仙人が住まう土地だと聞いても頷くだけで、夢のような空気を吸い込めばだれも帰って来られないと言われれば、
「じゃあ俺が、初めて返って来た奴になってやる」
と言って、俄然やる気を出したのだった。
遂には鬼達の方が折れ、泣く泣く可愛い桃太郎を送り出す事となる。
桃太郎は木の小舟の他に旅道具一式を受け取った。
その中には長期保存が可能な、黍で作られた団子もある。
力が出るという団子の入った袋を腰に括り付け、桃太郎は元気に島を旅立った。
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