創作
□御伽噺異伝 弐
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けれど、桃太郎がそれを止める。
「けして開けるなと言われたのに開けるのか?約束を破るのか?」
ハッとして顔を上げる若者に、桃太郎が言葉を続けた。
それは自分の奇異な出自とこれからの目標を連ねたものだった。
桃太郎の一方的な言葉に、若者は黙って耳を傾ける。
すると桃太郎は若者と目を合わせてこう言った。
「お前は俺が生まれて初めて見る人間だ。しかもお互い珍しい出来事を経験しているな」
気負い無く発せられた言葉に、若者の身体から力が抜けていく。
桃太郎は腰に括りつけた袋から黍団子を一つ取り出し、若者に差し出した。
「食べろ。力が出る。もし行く当てが無いなら俺と一緒に崑崙山とやらを目指さないか?」
立て続けに話す桃太郎を、困惑した様子で若者は見上げる。
戸惑いに揺れるその瞳に、快活な笑みを浮かべた桃太郎が映り込んだ。
「…」
ゆっくりと、若者は腕を持ち上げて団子を受け取った。
そして咀嚼し、涙を零す。
それに桃太郎は慌てた。
「どうした?俺は人間の事は分らない。どうすればいい?泣いているのだろう、お前は」
拙い慰めの言葉に若者は「大丈夫だ」と伝えると、玉手箱を抱き締め立ち上がった。
夕陽が水平線に接し、空と海が赤く燃える。
ねぐらに帰る鳥の姿を黒く彩り、揺らぐ赤は夜を手招く。
やがて空が藍色に変わる頃、二人は海に背を向けて共に歩きだした。
出てきたばかりの星を眺めながら、桃太郎は思い出したように若者へ声をかけた。
「竜宮城とやらに俺も行ってみたかった。どういう所だった?」
「素晴らしい所だったよ」
浦島太郎と名乗った若者は、玉手箱をゆるりと撫で、静かに微笑んだ。
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