創作
□あおぞら六重奏〜とある昼休み〜
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「祥生ちゃんって、本当に京太郎ちゃんが好きだよね」
思い出された祥生の顔に、恵子はしょっぱい思いを抱いたが、朋絵は穏やかな笑顔を浮かべている。
微笑ましいという気持ちを溢れさせたまま、朋絵は「じゃあ二人が来るまで、食べるの待ってようね」と続け、弁当包みに伸ばしていた手を引っ込めた。
「ううん、先に食べててもいいって、キョータ言ってたよ」
そんな彼女に、静弥は頭を振った。動きに合わせて、短い黒髪がサラサラと揺れる。
「じゃ食べちゃおっか」
親しさ故の気遣い無用に、恵子はさっさと弁当包みを紐解いて、中から楕円形の黄色い弁当箱を取り出した。
蓋を開けると、色鮮やかなおかずが姿を現す。
豚肉と玉葱の甘辛炒め、ブロッコリーのチーズ焼き、人参の皮むきサラダ、プチトマトにふっくらとした卵焼き。
左から覗き込む勝太から唾を飲込む音が聞こえた。
「…ほら」
「あ?」
弁当の内容に釘付けになっていた勝太の目の前に、恵子は自分の弁当箱の蓋を突出した。
「そんな物欲しそうに凝視されてちゃ、落着いて食事なんてできないのよ…」
勝太が理解する前に、恵子は蓋の内側を上に向け、手際よく自分のおかずを取り分ける。
「ふふ。私の唐揚げも乗せていい?」
「お米はボクの蓋に乗せちゃうね!」
恵子の意図を正しく理解した女子二人は、それぞれ弁当の一部を差し出した。
ようやく状況を把握した勝太が、胸にせり上がる感動のままに青空へ拳を突出した。
「お前ら大好きだーー!!」
「俺素敵ハーレム!」と叫ぶ勝太の頭を、恵子は「バカじゃないの!?」と言って、反射的に小突いていた。