創作

□あおぞら六重奏〜昼食まであと少し〜
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無事に社会科資料室に世界地図と地球儀を届け、それぞれ元にあった場所へと片付けた。
年中窓が閉切られているせいか、室内は僅かに黴臭い。
扉を閉切った空間は密室と呼べ、京太郎には少し息苦しく思えた。

「少し換気しよっか」

言いながら祥生は、校舎の裏側に面している、室内唯一の窓の鍵に手をかける。
少々の抵抗の後、雨風で汚れた窓はガラリとスライドし、外界と室内を繋げた。

久しぶりの外気が部屋に吹き込み、腰高の棚に積まれた資料集が煽られてページが繰られる。

「…僕はさ、京太郎…」

ぼんやりと資料集を眺めている京太郎の背中に、祥生が声をかけた。
振り向くと、陽光に背を向けた祥生がじっと己の足先を見つめていた。
逆光のせいもあり、その表情は陰を帯びて読取れない。

「僕達二人だけ別、っていうのも嬉しかった」

唐突な言葉に、一瞬何を話しているのか分からず、京太郎は目を細めた。
しかし、彼が高校受験の時の事を指している事に思い至り、ああと当時を振り返る。

当初は、京太郎と祥生は県外の有名私立高校に進学する予定だった。
合格通知を受取ったにも関わらず、その未来を蹴って今いる県内の高校に進学したのは、京太郎のわがままに近い、ある強い希望からだった。


「でも、」

回想にふける京太郎を祥生が見つめたその時
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