創作
□御伽噺異伝 参
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訊けば、舟代りに使っていたお椀にひびが入り、呆気なく水没したとのこと。
桃太郎達には片足で跨げる程の川幅ですが、この人間には大河のように思えたのでしょう。
握りしめた箸を闇雲に振り回し、沈まないようもがくだけで精一杯だったそうな。
浦島太郎は火を熾し、器用に脱がした着物と共に近づけさせました。
小さな人間はありがたがって体を温めます。
そのやり取りを興味深そうに眺めていた桃太郎が声をかけました。
「お前はどこに行く?俺達は崑崙山を目指している」
「都だ。拙者は都を見てみたいのだ。そしてどこぞの家に仕える侍となりたい。それで川を下っていたのだが…情けない」
一寸ばかしの背丈で一丁前な喋り口調。掌ほどしかない人間は、侍になりたいと答えます。
しかし、桃太郎も浦島太郎も、それを笑い飛ばすことはしません。
二人とも実に奇妙な過去を持っています。それゆえ、かえって親近感が湧いたのでしょう。
「俺も人間の都には行ってみたい。一緒に行くか?」
桃太郎の言葉に小さな人間は暫し惑い、やがて頭を振りました。
「いや、ありがたいが遠慮致す。これは拙者の決意でござる。拙者自身の足で、都までの道を踏みしめたい」
凛とした態度に桃太郎はそうかと頷きます。
そして風呂敷からお椀を取り出し、ぐっと突き出しました。
「それではこれを使え。これは鬼が毎日使っても壊れないほど丈夫なものだ。これくらいは受け取っておけ。あとこれも。力が出る」
桃太郎は一方的に言葉を綴った後、腰に提げた袋から団子を取り出します。
浦島太郎も微笑ましく眺め、受け取るよう促しました。
「なんと…有り難い。謹んで頂戴致す」
小さな人間は大層感激した様子でお椀と団子を受け取りました。
ただ、身体が小さいため、団子は四半ほどしか食べられませんでした。
身体が温まったところで、小さな人間は着物を着て腰に縫い針の剣を佩きました。
そして浦島太郎にお椀の舟に乗せてもらい、桃太郎から櫂代りの箸を手渡されます。
「かたじけない」
謝辞を述べ、小さな人間は旅立ちました。
桃太郎と浦島太郎は、その姿が見えなくなるまで手を振り続けていました。
やがてこの小さな人間は都でも有名な立派な侍となり、名を改め、美しい姫と結ばれます。
ちなみに彼の改める前の名は、一寸法師といったそうな。
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