創作
□御伽噺異伝 肆
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地形に慣れているせいか、山姥はどんどん距離を詰めて来ていた。
今や叫び声どころか、その駆ける足音までが聞こえそうだった。
「うう…に、二枚目の札じゃ」
他に手はないと判断するや否や、小僧は懐に入れておいた札を取り出し、叫びながら後方へと投げた。
「大川よ、出ろ」
すると札が横一文字に伸び、瞬く間に大きな川となって山姥の行く手を阻んだ。
札の力を目の当たりにした二人は、驚きに目を見開いた。
「凄い」
「今の内じゃ」
疲労を訴える足を叱咤し、小僧は走る速度を緩めず駆ける。
二人もそれに続いたが、桃太郎がある異変に気付いて振り返った。
「これは凄い」
感嘆の声を上げる彼を振り返り、今度は何だと目を凝らす。
「あのババ、川の水を飲んでいる」
ぎょっとなる二人にも、川に口を着けて水を吸い上げる山姥の姿が見えた。
あまりの勢いに震えた二人だが、桃太郎だけは生き生きとした声でこう宣った。
「よし、ちと勝負してくる」