創作

□御伽噺異伝 肆
3ページ/6ページ


地形に慣れているせいか、山姥はどんどん距離を詰めて来ていた。
今や叫び声どころか、その駆ける足音までが聞こえそうだった。

「うう…に、二枚目の札じゃ」

他に手はないと判断するや否や、小僧は懐に入れておいた札を取り出し、叫びながら後方へと投げた。

「大川よ、出ろ」

すると札が横一文字に伸び、瞬く間に大きな川となって山姥の行く手を阻んだ。

札の力を目の当たりにした二人は、驚きに目を見開いた。

「凄い」
「今の内じゃ」

疲労を訴える足を叱咤し、小僧は走る速度を緩めず駆ける。

二人もそれに続いたが、桃太郎がある異変に気付いて振り返った。

「これは凄い」

感嘆の声を上げる彼を振り返り、今度は何だと目を凝らす。

「あのババ、川の水を飲んでいる」

ぎょっとなる二人にも、川に口を着けて水を吸い上げる山姥の姿が見えた。

あまりの勢いに震えた二人だが、桃太郎だけは生き生きとした声でこう宣った。

「よし、ちと勝負してくる」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ