創作

□あおぞら六重奏〜みんなで食べれば怖くない〜
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 そんな彼女をねぎらったのは、いつの間にか弁当を食べ始めていた京太郎だ。

「おつかれ」

 無口な彼なりの労わりの言葉に、恵子はへらりと笑い返した。
 お寺の息子だからか、京太郎は常に泰然自若の構えをとっている。高校生にして悟りを啓いているかのような雰囲気に、癒される事もしばしばある。

 もう今日は傍観に徹しよう。京太郎のように心落ち着けて穏やかにお昼を過ごそう。
 そう恵子は決意して、目の前で展開するおしゃべりを眺めた。

「な、な!今度みんなで弁当交換会しようぜ!」
「え、勝っちゃん何々?プレゼント交換みたいな感じ?」
「おう!いつもと違う家庭の味をあじわうのもいいと思うぜ?ってか、今日思った!」
「ふふ、うちの唐揚げ気に入ってもらえた?勝太ちゃん」
「すっげえ旨かった!だからまた食わしてよ。やろうぜ交換会!」
「うんっ楽しそうだね!やろうやろう!あみだくじとか作ってさ」
「静弥ちゃん張り切ってるね。じゃあ私、『唐揚げ大盛り弁当』作って来るね」

「さっすが朋絵!じゃあ俺、『男の豪快・肉特盛り弁当』持って来るぜ!」

「じゃあボク、『こってりたっぷり!肉超盛り弁当』用意して来る!」

「じゃあ僕は、『ロシアンルーレット☆肉激盛り弁当』開発して来るよ」

「何その危険弁当!?お昼に命がけなんて嫌過ぎるわ!ってかあんたら肉一択かい!!」

 我慢できずに恵子は叫んだ。
 固めた決意は満塁打を喰らったボールの如く、空の彼方へ吹き飛ばされた。

 そのツッコミを待ってましたと言わんばかりに4人のおしゃべりは加速していく。
 恵子は無意識のうちに巻き込まれ、それぞれのボケを懸命に捌きだす。


(平和だ・・・)

 5人の会話の応酬を眺め、京太郎は空を仰いだ。

 朗らかな熱を地上にそそぐ太陽に、形を変えながら流れる白い雲。春の晴天に目を細め、傍観者は胸中で呟いた。


 今日も平和だ、メシが旨い。



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