創作

□御伽噺異伝 肆之後
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「一時はどうなることかと思ったよ…」

 寝具に身体を納めた浦島太郎は深い溜め息をついた。

 あの後、言葉巧みな和尚に諭され、桃太郎の躾は実行されずにすんだ。

 解放された小僧は和尚の指示で客人の布団を用意すると、逃げるように自室へと引っ込んだ。

 自分が何故小僧に怖がられているのか、よく理解できていない桃太郎は浦島太郎の言葉に首を捻る。

「そんなに鬼と人では子の育て方が違うのか?」
「全然違うよ…」

 屈強な体躯が前提で行われる躾方は、脆弱な人の身には酷過ぎる。
 その違いを早目に把握して欲しいと浦島太郎は強く願いながら桃太郎を眺めた。

 視線の先で桃太郎は目を瞬かせる。その様子がいたいけな子供に見えて、浦島太郎は眉を寄せた。

「桃…その、酷いことはされなかったんだよね?」
「?俺が?誰にだ?」
「ううん…何もなければ、それでいいんだ」

 遥かな時を越えた浦島太郎にとって、桃太郎はただ一人の友だ。

 身内を失い、知り合いを失い、居場所すら失った。その現実に絶望したまさにその時、桃太郎と出会った。
 夕暮れ時、赤く染まる空を背負って力強く笑った桃太郎。
 誰にも存在を認めて貰えなかった己を旅に誘った、海のように広い懐の持ち主。

 あの時彼と出会えていなければ。その仮想をする度、浦島太郎の身体は震える。

 鬼だろうが人だろうが構わない。絶対に失いたくない、大切な友人。

 彼に降懸かる災難は、我がことのように心を突刺す。

「変なこと聞いてごめんね」と言えば、「だから何がだ」と返される。
 それに力なく笑う姿を見て、今度は桃太郎が心配そうに顔をしかめた。

「どうした、浦島?お前こそ何か言われたのか?」
「何も…ただ」

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