創作
□夜明け前の独奏‐kyotaro‐
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―――俺は『 』に引摺られる
物心ついた頃、その概念を知った時、頭が割れそうになった。
母に手を引かれて散歩していた途中。
車道の真ん中で、一匹の猫が足を投げ出して横になっていた。
白い毛並みは赤黒く汚れており、猫はぴくりとも動かなかった。
「まぁま、ネコ、ねてる?」
「…ねているんじゃ、ないのよ…」
「なんで?ネコねてないの?おきないの?」
「もう起きられないのよ…」
「なんで?かけっこしないの?ごはんたべないの?」
「かけっこも、食べるのも、もう何も出来ないのよ…」
「なんで?」
「『 』んでいるから」
直後、俺は発狂したように声を上げ、その場に倒れた。
その日から、俺は『 』に関連する光景に弱くなった。
そういった光景を見ると高確率で倒れるようになり、体力も徐々に衰えていった。
『 』が怖いが故の拒否反応ではなく、身体が何かに支配されていく。
『 』が、俺を侵蝕していく。
心因的な疾患と診断され、根本的な治療法もない。
一つだけはっきりしているのは、寺の子供として致命的だということ。
枕元で、祖父が呟いた。
「……やはり、お前もか……」
すまないと、祖父は声を絞り出すようにして謝った。
このまま緩やかな『 』を迎えるのだと感じた頃、
―――奇跡が訪れた。
娘に御祓いをして欲しい。
そんな依頼が住職である父の元にやって来た。
花屋を営む夫婦が連れてきた子供は、小さな声で「しずや」と名乗った。
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