創作

□夜明け前の独奏‐shizuya‐
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「御祓いに行きましょう。」


 お母さん達がそう言ったのは、ボクのせいだった。





 ボクは小さい時から、何だか不思議なモノを見ることが多かった。

 身体の一部が欠けているヒト。
 動物と混じってしまったようなヒト。
 高い所とか線路の上とか、危ない場所に立ち続けるヒト。
 泣いたり笑ったりをひたすら繰返すヒト。

 色々なバージョンがあるけど、共通点が一つだけあった。


―――お母さん達には見えなくて、ボクにだけ見えている。



 ボクが4才の時だったかな?

 あの時ボクは、お母さんと一緒に公園に来ていたんだ。
 お日様の出ている明るい昼間。ボクは砂場で砂遊び、お母さんは近所の人達とおしゃべりに夢中だった。

「ねえ、一緒に遊ぼう」

 砂の山を作っていると、一人の女の子が声をかけてきた。
 顔を上げると目があって、女の子はニッコリ笑った。

「ねえ、遊ぼう」

 赤いリボンの髪飾りと赤いワンピースが、色白の肌によく映えた。

 お母さんの方を見たら目があって、お母さんが手を振った。
 それに女の子が手を振り返す。

「ねえ、遊ぼう」
「いいよ。何して遊ぶ?」

 お母さんにも見えているなら大丈夫。そう思ってボクは立ち上がった。

「こっち。こっちに来て」
「そっち?」
「こっち、こっち」

 女の子が指差したのは公園の外。

「そっちは外だよ?」
「こっち、来て。ボール、取って」
「ボール?」

 女の子が指差す先に、赤い水玉模様のボールが一個転がっている。

「取って、って?取りに行けないの?」
「うん。足が くて、取りに行けないの」
「え?」
「足が くて、行けないの」

 足が痛いのかな?ちょっと聞こえなかったけど、多分そうかな。

「いいよ。ちょっと待って」

 困ってる人がいたら助けてあげなさいって、お母さん達も言ってるもんね。
 女の子に手を振って、ボールの元へ駆け寄った。

「…あれ?」

 ボールの所にはあっという間に着いたけど、何か変だ。

「あれれ?」

 ボールは地面にピッタリくっついている。
 転がそうとしても、持ち上げようとしても、ボールは全然動かない。

「う〜ん…う〜…ん?」

あれ?

何かベチャッてした。

「え?」

 手のひらを見たら、何でか赤くなっている。
 よく見れば、ボールの赤い水玉模様が手に移っちゃったみたいだ。
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